群馬カレー界のゴッドファーザーからゐ屋

No.07

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菓子職人からの華麗なる転身
群馬カレー界のゴッドファーザー「至極の一皿」

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高崎に群馬カレー界のゴッドファーザーあり」。そんな情報をキャッチした絶メシ調査隊。ドンは、信越本線北高崎駅から2キロの地点で「カリーのからゐ屋(からいや)」なるカレー店を営んでいるらしい。さらに綿密なリサーチを重ねたところ、この「からゐ屋」は「群馬が誇る隠れた名店」で、狂信的なファンも少なくないんだとか。そこで今回は絶メシ調査隊一、カレーにうるさいライター吉田が突撃した。

(取材/絶メシ調査隊 ライター吉田大)

群馬カレー界のゴッドファーザーと出会う

写真ライター吉田

「こんにちは!絶メシ調査隊の吉田と申します。私、生まれも育ちも埼玉県さいたま市。ライター稼業を営んでおります。正直言って高崎のことは全然知りませんが、なんの因果か絶メシ調査隊に入隊し、高崎の名店を訪れる事となりました。ドンに失礼なき様、一生懸命に努めさせていただきます!」

高崎駅から三国街道を北上、高崎環状線を左折するとスーパーマーケットチェーンの駐車場が見えてくる。その一角に店舗を構えているのが「からゐ屋」だ。

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見ての通り、外観は地味。そして高崎の中心地からも離れた場所にある。ホントにこんなところ(失礼)に群馬カレー界のゴッドファーザーがいるのだろうか?

パッと見た感じは、非常にこじんまりとしたお店。ぶっちゃけ名店の風格は感じられない。不安に襲われる絶メシ調査隊一行。しかし入店した瞬間に空気は一変する。

ドアを開けた瞬間に「フワァ~」っと鼻腔をくすぐる芳しいスパイス香。

う~ん良い香り。「これは期待できるかも!」と一行が盛り上がる中、ゆっくりと店の奥から現れるゴッドファーザー。例のテーマが脳内を駆け巡る。宮内信正さんである。

ダーッハッハッ!!

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「カリーのからゐ屋」 宮内信正さん。豪快そのもの。奥は現在からゐ屋社長を務めている娘さん

写真ライター吉田

「お店に入った瞬間にスパイスの豊かな香りが漂ってきました」

写真宮内さん

「よく言われんだよ!でも自分じゃ全然分からないんだ!もう鼻がバカになってんだよね!ダーッハッハッ!」

写真ライター吉田

「(すげえ早口!そして声がデカイ!これが上州男なのか!)こ、こちらは、どんなカレーを出されてるんでしょうか?」

※とにかく元気だった宮内さん。その言葉を忠実に文字にするならば、全ての語尾に「!」をつけるべきなのだが、流石に暑苦しいのでココからは割愛。

写真宮内さん

「玉ねぎで練っているので、一応『インド風』とは名乗っていますが、本来インドカレーはスープを使わないんです。ウチは鶏ガラスープを使ってカレーを伸ばしています。ですから全く独自のカレーですね

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手前の鍋から黄金色に輝く鶏がらスープを掬い、カレーを伸ばす宮内さん

写真ライター吉田

「なるほど、インドカレーでありながら、スープカレーでもあるんですねえ」

写真宮内さん

「健康食品であることを心がけているので、化学調味料は使わない。味付けは塩と酢とスパイス、あと肉汁だけ(キッパリ)

写真ライター吉田

「スパイスの調合に関しては、どのように勉強されたんでしょうか?」

写真宮内さん

「スパイス専門の本、それと料理の本でカレーを扱ってるものは随分読みました。主に使ってるスパイスは13種類くらい。あと肉によって炒める時にまぶすスパイスを変えてます」

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キッチン前には大量のスパイスが並んでいるが、これでも一部なんだそう

写真ライター吉田

「野菜の切り方に特徴があるとか」

写真宮内さん

「女の子でも一口で食べられる様に細かく切ってます。ガブッと食うんではなく、スプーンで口に運べる様にね」

写真ライター吉田

「ご飯へのこだわりも強いと聞いています」

写真宮内さん

「一度研いだ米を乾かして、昔の天日干しに近い状態にした後で、固めに炊いてるんです。カレーのご飯は固くないとダメ!お客さんからも『お新香だけで食えるよ』って褒められますね。それじゃ商売にならねえよ、ダーッハッハッ

予想外の美味さに
カレーの皿を奪い合う絶メシ調査隊

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キッチン前に吊るされた唐辛子。ご主人曰く「アクセサリーみたいなもんだよ」

店内に漂うスパイスの香りと宮内さんのカレートークを聞いてるうちに、空腹も我慢の限界が近づいてきた。ちなみに同店では辛さがお好みによってかなり細かく選べる。宮内さんのオススメは、特辛(10倍)まで。「それを超えると原液の味がかなり薄くなっちゃうんだよ」と宮内さん。ちょっと辛いのが好きなら、5~6倍あたりが良いとも。

ということで、今回は、ポーク3辛、ミックスラム6辛、ミックスツナ10辛の三品をオーダーしてみた。

そして来たけど…
このライスのボリューム、なに?

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勝手に大盛りをオーダーされた模様

そしてカレーもサラダもスープもきた。

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ミックスラム(900円)/ライス大盛り(プラス200円)。2合以上はあろうかという大盛りライスは、高崎経済大学のアメフト部やラグビー部の要望で、こんな量になってしまったんだとか

実に具だくさん。

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丁寧に賽の目切りにされた野菜と仔羊の肩ロース肉がゴロゴロ入っている

パクっとな。

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こ、これは!

写真ライター吉田

っていうかこれ、メチャメチャ美味いっすよ。歯ごたえと噛み易さを両立した絶妙なサイズのラム肉、スイスイ食べ進められる賽の目切りの野菜、パラパラに炊き上げられた固めの御飯が、辛いだけでなく芳醇な香りが楽しめるカレースープに絡んで…。こりゃあ無限に食える。いや、飲めますね」

写真宮内さん

「喜んでくれて良かった。ちなみに肉をダブルにしたり、ツナを追加したり、あとはルー大盛りなんかもやってるから。通常はプラス100円。エビとか高い食材は150円から200円」

ライター吉田の本気の賞賛に反応したのか、「ちょっと食べて良い?」と、カレーに襲いかかる絶メシ調査隊スタッフの面々。吉田が食べるべきカレーを、みんなで食べ始めた。カメラマンのI氏はすでにカメラを手にしていない。

写真ライター吉田

「コラコラ!撮影前のツナカリー(700円)を食べちゃダメだって!『あ、食べます?』じゃないよ! おい、キャメラマン! ちゃんとカメラを構えろ! みんな仕事しろよ!」

カレーに貪りつくスタッフから、わずかに残された「ポークカリー」(750円)を奪い取って食べる吉田。ウン、やっぱりヒレ肉は柔らかい。ラム肉が苦手な人にはこちらがオススメかも。

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ちなみにポークカリー(奥)とラムカリー(手前)は生クリーム入り

さらに「ミックスツナカリー」(800円)にもトライ。10辛ともなってくると、かなり唐辛子の風味が目立ってくる。たしかにご主人のスパイスミックスを堪能したければ、この辺りが限界かも。なおランチ、ディナータイム共に、全てのカレーには特製ドレッシングがかかったサラダとスパイス入りの鶏ガラスープが付属する。これがまた美味いのだ。

写真ライター吉田

「サラダとスープもめちゃくちゃウマいですね」

写真宮内さん

「スープにはスパイスが4種類入ってます。サラダにかかってるのは、マヨネーズにヨーグルトとレモンを絞ったオリジナル・ドレッシングですね。随分評判が良くて『教えてくれ』って人も多いんです。カレーの方はともかく、このドレッシングには自信持ってんダーッハッハッ

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「”ラッキョウを齧るのがイヤだ”って女の子がいたんで、スライスしてみたんです」と宮内さん。からゐ屋のメニューは、こういう心遣いで出来上がってる気がする

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絶メシ調査隊によりガチ完食されたデカ盛りカレーたち。食ったね

「後継者も弟子も募集はしておりません!」

写真ライター吉田

「失礼ですがお歳は?」

写真宮内さん

「74だね。この店のオープンは1983年から。34年経ってるんですよ。その前、私は洋菓子屋さんだったんですよ。で、この店を始めるにあたって、周りを調べた結果、カレー屋がなかったんです。それで『じゃあ一丁研究してやってみるか』って思ったんだよね」

写真ライター吉田

「未経験で、しかも40歳からカレー屋を始めるって相当な勇気がいると思うのですが」

写真宮内さん

人一倍どころか人三倍くらい勉強はしましたよ。本も読んだし、都内のカレー屋さんは大体行った。そりゃもう散々食ったね」

写真ライター吉田

「ちなみにどこのお店が印象に残りました?」

写真宮内さん

「渋谷のムルギーと新宿の中村屋だね」

写真ライター吉田

「それだけ熱心だとオープンから順風満帆だったんじゃないですか?」

写真宮内さん

「全然ダメですよ。店を始めた頃は小麦粉を使ったドロッとしたカレーが当たり前の時代ですからね。お客さんも『これがカレーなの?』ってたまげるわけですよ」

写真ライター吉田

「そんなからゐ屋さんがブレイクするきっかけとなったのは?」

写真宮内さん

「30年近く前に『カレー博覧会』ってのがあって、頼まれたんでツナカレーを出してみたら評判になったんです」

写真ライター吉田

「それ以来ずっと儲かってるってことですね!」

写真宮内さん

「これが儲からねえんだよ(笑)」

写真ライター吉田

「安いですもんねえ。値段の設定に問題がありますよ」

写真宮内さん

「値上げしようとは思ってんだけどね。なんだかんだで結局そのまんま

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700円のツナ、チキン、野菜を筆頭に、一番高いミックスビーフでも1000円。ルーを大盛りにして具をダブルにしても1500円以下。とんでもないコストパフォーマンスである

実は、宮内さんは2003年に交通事故で、大腿骨二箇所を骨折する大怪我を追っている。結局、立ち仕事が困難になり創業以来唯一、長いお休みを余儀なくされる。休んだ期間は実に8か月。当時“アラ還”だった宮内さんからすれば、現場復帰も危ぶまれるほどの長期の戦線離脱であった。

写真ライター吉田

「30年超の歴史を持つからゐ屋にとって最大のピンチだったのでは?」

写真宮内さん

「まあね。でも休業中、店の表に『交通事故のため休みます』って大きな張り紙をしてたんですが、そこにお客さんが『頑張れ!』とかって書き込みをしてくれてねえ。あれにはちょっと感激しちゃった。もうやるしかないよな。今もプレートとビスが入ってるし、後遺症で膝が曲がんないんだけど、まあ毎日がリハビリみたいなもんだよ」

写真ライター吉田

「ホント豪快ですよね。でもそんな状況だと後継者や弟子とか欲しくなったりはしませんか?」

写真宮内さん

「う~ん。今のところ思わないかなあ。ただ、熱意がある人にはレシピを教えることにしてんです。中には本当にほとんど同じ味で店を始めたのもいたんだけど続かなくてね。一年もしないで辞めちゃったんじゃないかなあ」

写真ライター吉田

「それ、残念ですね。でも、ご主人、こんなウマいカレーのレシピを教えてくれるなんて懐深すぎですよ。そんなにオープンなら、レシピをこのサイトで公開してみません? この味が高崎に残るなら、それも素晴らしいことだと思うんですけど」

写真宮内さん

いや、それは止めとく。そういう手軽に知りたいってのは違うよな。弟子だろうとレシピだろうと、コッチが何言ってたってやる気がある人は店に来るでしょ?その時に考えますよ。ただ最初に『儲かんねえから止せ』って言うと思うけどね(笑)」

「弟子は募集してない」と言いつつも、熱意にほだされて、ついついレシピを教えてしまうという宮内さん。多くの人に愛されるのは、味だけでなく人柄によるところも大きいのだろう。それにしても、ここのカレーは本当にウマい。思わず帰路乗ったタクシーの運転手さんに「絶対食ったほうが良いっすよ!」とレコメンドしてしまったが、よくよく考えると地元の人だったら食ってるか……つーか、食ってない高崎市民がいたら、絶対損してるからな! 

最後にライター吉田的には「ミックスラム」の6辛が至高だ。しかも、ルー大盛りのラム肉ダブル。ビールとの相性も間違いない。

ここにもあったか、絶品高崎グルメ。絶やすなよ、高崎市民よ!

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取材・文/吉田大
撮影/今井裕治

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