これは食える天然記念物だ!
コワモテ主人が魂込めて作る
採算度外視の大衆食堂メシ
これは食える天然記念物だ!
コワモテ主人が魂込めて作る
採算度外視の大衆食堂メシ
大衆食堂の醍醐味は、味のある建物や、素朴で何度でも味わいたくなる料理、家族経営ならではの人間模様などさまざま。この地で44年の歴史を持つ「大将」は、そんな魅力を凝縮した……否、凝縮されすぎている店だった!
(取材/絶メシ調査隊 ライター名/増山かおり)
「3度目の登場となります、ライターの増山です。写真中央、カラオケでkiroroっぽい曲ばっかり歌いそうな感じで突っ立っているのが私です。さて、今回やってきたのは高崎の人気大衆食堂『大将』さんです。店名通りの“大将”としか言いようのない親父さんと、快活なご家族・ご親族で経営されているという、絶メシリストど真ん中のお店です!」
そして店内もパーフェクトなのである。
すべてを物語るこの写真。
大衆食堂ファンであれば脳内でドーパミンがダダ漏れになりそうなくらいに、喜びで満たされるこの感じ。これから通いつめたい。いや、住み込んでみたい。
しかし。
そうした店内の雰囲気とはうってかわって厨房の中は活気というより、殺気が漂う。そこは料理人たちの戦場。黙々と中華鍋を振り、一心不乱に野菜を切る人たちの姿が。
「(迫力すごいわ)す、すいません…た、大将、大将。お仕事中にすいません、取材でお邪魔した絶メシ調査隊の増山です…(完全に及び腰で)」
「あぁ、声が小さいのかな……。よーし(息を吸い込んで)、大将!!! はじめまして! 取材にやってきました! 大将! 絶メシ調査隊がやってきましたよ!」
「えっ、てっきり少年時代から“大将”と呼ばれるタイプの方かと思ってました。大将がやってる店だから『大将』だと」
「もういかにも食堂屋の親父さんって感じの信一さんですが、こういうお仕事はいつからやられているんですか?」
「え、こんなに大衆食堂が似合うのに!」
「料理人になることが運命づけられていたんですね」
「このお店はどういう経緯でやることになったんですか?」
「今や大人気店ですけど、お店は最初からうまくいったんですか?」
「贅沢な悩みですね」
「そうかなぁ。忙しすぎるとイヤでしょ? 適当なのがいいでしょ? あんまり忙しいと、ねえ。今はだんだん年数重ねて(お客さんの)子どもも大きくなって家にはいなくなっちゃったし、出前とる量も減ってきたからマシにはなったけど」
「出前が少なくなったとはいえ、さっき見てると3人の出前担当のオジサマ方が交代交代でひっきりなしに出入りしてましたよ?」
「まぁ、昼時はね。そうそう出前やってる3人のうちのひとりは一級建築士がいる。あと資産家の倅で、働かなくても食ってけるやつもいますよ。そいつは暇を弄ばしているから、うちを手伝ってくれてるんだよ」
特にキャラが濃いのはお姉さんの昌子さん。お客さんにお料理を提供するときに「This is餃子!」「This is カルビ!」と真顔で言ったり、お会計のときに
『はい、おつりは150万円!』と淀みなく言い放つのである。令和の時代に残る、真性の昭和ギャグ。これもまた、いいのだ。ではでは、お待ちかねの実食タイム。さてなにを食べるかである。
常連さんによると、「レバニラと餃子は外せない」という。うむ、それは頼もう。一方、昌子さんによるとオススメは「全部!」とのこと。そりゃ全部食べてみたいが、さすがにこれだけのメニューを片っ端から食べるのは無理な話。「非常に迷うところですが、常連さん激推しの餃子とレバニラ、カルビラーメン、あと焼肉定食もいいですか
もちろんOK!!
まずはこちらから!!
This is レバニラ!
「うわ、美味しいわ…しょっぱすぎず、食欲をそそるジャストな塩加減。シャキッとした食感の野菜に粒状のにんにくがたっぷり加わり、香りだけでなく舌触りも楽しめますね。これは常連さんが頼み続けるのも納得です」
続いてこちら。
This is カルビ!
「昭和から続くお店には珍しい本格的な辛さ! なのに、透き通ったスープの旨味をしっかり感じます。野菜から出た甘味がスープに移っているのもいいし、全部の食材がはっきり感じられるのもお見事。玉子のまろやかさがスープに少しづつ移っていくのもたまらないわ〜」
「うれしいこと言ってくれるねぇ。ラーメンを食べれば一発でその店の力がわかるからさ。昔、●●食品(超有名インスタントラーメンのメーカー)の開発担当者がよくうちに来て、スープを瓶に入れて持ち帰ってたこともあったよ。それ分析して、マネするからって」
「え、味のパクりじゃないですか! 怒らなかったんですか?」
「全然いいよ。だって、どうせ真似なんてできっこないから。もちろん(科学的に分析すれば)なにが入ってるかわすぐわかるんだろうけど、それを再現なんてのは無理なの。手間ひまかけて儲からないことやってるからね。そんな無駄なこと企業ができるわけないよな」
「かっこいい」
「かっこよくないですよ。毎朝、スープづくりを一からやって、鍋に火をつけてずっと見てるんですよ。地道な作業です。かっこよくともなんともない」
「(一口食べて)おや、これは…食べたことのあるモツとは全然違う。モツ特有の臭みがなく、またおいしくないモツにありがちなゴムっぽい食感も全然ないですね。味噌で優しく煮込んだようなマイルドなコクもある〜。これは美味しいです!」
「ふふふ。モツは一度に7kg仕入れるんだけど、使うのは4kgだけだからね。脂を取って3kgは捨てちゃう。普通の店だとモツ買ったらそのまま煮るけど、それやるとどうしても臭みが残るでしょ。自分はそういうの嫌なの。そうやって作ってるから、全然儲からないんだよなぁ。まぁ、儲かりたくて作ってるわけじゃないからいいんだけどさ」
「何食べても美味しいし、それぞれのお料理で丁寧に仕事をされているのが伝わってきました。そしてなによりこの雰囲気の中で、食べられるというのが最高の食体験ですよね。食べるって、口の中、舌の上で完結するものじゃないって改めて思いました!」
「採算性を度外視してなんでも手作りでやっている大将さんのようなお店は本当に貴重だと思うんですよ」
「でしょうね。高崎にある市川食品ってこんにゃくの会社の会長さんもよく食べに来るんですけど、『街の飲食店がどんどんなくなってる』って嘆いてますよ」
「信一さんからして、そういうお店がなくなってるって感じるのは、ここ何年くらいですか?」
「5、6年経つかなあ。みんなそれなりの年齢になってきてるからねぇ」
「後継者問題ですね。つかぬことをお伺いしますが、大将さんには、今後お店継ぐ方はいらっしゃるんでしょうか?」
「息子にやれって言えばやるでしょうけどね。今、高崎で居酒屋をやってるんですよ」
「なんと! その居酒屋には行かれたことはあるんですか?」
「ありますよ。週に3回くらい行ってる」
「まさかの通い詰め!」
「暇だとかわいそうだから、飲みに行ってやってるんですよ。でも、多分継いでもらってもだめでしょうね。自分と同じことはできないから。二番目の兄貴のやってる『大将』も次男が継ぎましたけど、うんと仕事が速くて研究熱心な兄貴だったから、それを全部継ぐことはできず苦労してますよ。だから、うちも継いでも無理だろうなぁ」
「ご自身が一つ一つ大事にやられてるからこそ、それがどんなに大変なことかわかるから、お子さんに安易に継げとは言えないんですね。ご主人のお料理に、それが表れているなって思いました」
「まぁお店は基本的にはオレがやれるまでやる、っていうことになるかな。でも、うちの家族はみんな早くに亡くなってるからね。俺は今70だけど、父親が46で、母親が33の時に亡くなってる。上の兄弟3人ももういないし、自分が一番長生き。まぁ、それを見てるから酒は好きだけど馬鹿飲みはしてないよ。煙草もやめて40年くらいになる。少しでも生きて、この店を続けたいしさ」
「是非長生きして、おいしいものをずっと作っていってください。本日は本当にありがとうございました!」
誰もが嫌がるような面倒な作業を、長年ずっと続けてきた信一さん。そしてそれをいろいろな面でサポートしてきたご家族とお仲間。強い絆で結ばれた“ファミリー”が大将という奇跡の食堂を、令和の時代まで存在させてきたのだ。おそらくこんな大衆食堂は、今後一切(新たには)生まれてこないだろう。
大将――高崎市民ならずとも絶メシファンなら、絶対に一回は足を運ぶべき店である。
取材・文/増山かおり
撮影/今井裕治
No.57
大将(たいしょう)
027-353-0727
11:00頃~14:00(昼帯)、17:00~19:30頃(夜帯)
木曜日
群馬県高崎市上大類町959-2
高崎問屋町駅から1,464メートル
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