純喫茶マニアも注目
高崎が誇る名喫茶のプリン・ア・ラ・モード
純喫茶マニアも注目
高崎が誇る名喫茶のプリン・ア・ラ・モード
高崎駅からほど近い中央ぎんざ商店街の入り口付近にある喫茶店「コンパル」は、純喫茶にまつわる書籍やエッセイなどに幾度となく登場する、喫茶店好きをうならせる名店だ。そんな「コンパル」について町の人に聞けば、半世紀以上も店を守る名物店主がいるとの噂もあり、気になって仕方ない我々、絶メシ調査隊。持ち前のフットワークを駆使して、いざ突入!
「こんにちは、ライター船橋と申します。本日も東京からノコノコやってきました。突然ですが私はですね、昔ながらの純喫茶も最新のオシャレなカフェも大好きなんですよ。取材をはじめ、プライベートも含めると何百・何千軒と巡っていますし、正直なところ、その辺の目は肥えてます」
そう自信たっぷりに豪語するライター船橋が向かうのは、昭和39年頃に創業したという老舗喫茶店「コンパル」。すると目に飛び込むは、レトロな看板に、古めかしくも美しい食品サンプルの数々。「いい喫茶店は入り口からイケてるもの!」と、偉そうに謎の定義を掲げるライター船橋の瞳がキラりと輝くのである。
「これは間違いないやつだ…」と武者震いするライター船橋。いざ店内に足を踏み入れた瞬間、その直感は確信へと変わった。
ドヤ!
大きな鏡に身を包み込むチェア、額縁に収められた絵画たち。ああ、これは本物だ。あの古き良き昭和の時代が今もここに。
そんなイカした空間で出迎えてくれたのは、店主の田島保雄さんと奥さまのあけみさん(顔出し絶対NG)。ご夫妻に、こんなにも素敵な店の成り立ちを聞かずにはいられない。
「元々はね、ここのビル全部が親の持ち物だったの。ここでオヤジは床屋をやってたんだけど、だるま弁当でお馴染みの『高崎弁当』の松本さんという人が、昭和39年頃にここで喫茶店を始めてね。昭和45年頃だから、それから5、6年してからかな…当時25歳の僕が、この店を手伝い始めて、その2年後には正式に店を譲りうけることになったの。あん時は3階まで吹き抜けの2フロア体制。3階の奥には床屋があったりしたんだけどね、今は2階のみのワンフロアになってるんだよ」
「2階と3階が吹き抜けの喫茶店!! 何それ、めっちゃかっこいいじゃないですか。今の状態でも相当かっこいいですけども。ご自身でもそう思いません? レトロでイケてるなぁとかって」
「いやぁ、ほかの能力がないだけで、ただ長くやっている…それだけなの。でもさ、お店を持つってすごく大変でさ。だって営業するからには、店に誰かいなくちゃいけないじゃない。留守番と管理をしなきゃいけないんだもの」
「そうね。今すぐにでも辞めたいもの(にっこり)」
「ウッソ(苦笑)。もったいなすぎます! だってこのマッチのイラストも素敵すぎますし、絶対に後世に残してほしい!!!」
「これはね、美術学校の先生が描いてくれたの。マッチをふたつこうやってくっつけるとお花の模様になるの」
これはハイセンスだわ。
発注しすぎて、何千個の在庫をかかえているという、ロウでできたこのマッチ。「何十年も前のものだから、火が付くかどうかもわからない」とあきえ夫人。そういうエピソードも、すっごくそそる!
レトロな喫茶店でいただきたいものといえば、「プリンア・ラ・モード」である。異論は認めない。
というわけで、ライター船橋が勝手にオーダー。すると、田島さんが奥の厨房で生クリームをホイップする音が鳴り響く。そしてフルーツも注文が入ってからカットしている模様だ。
「え! 店内でホイップしているんですか。フルーツも今カットしているし。既成のやつとか使わないんですね?」
「ああ、そういうものを知らないだけよ(笑)」
「知ってるよぉ~(ややキレ気味)。僕はね、原価率は気にしないの。お客さんが喜んでくれたらそれでいいじゃないの。年金もみなさんからもらっていることだし」
優しい口調で答える田島さん。丁寧に作業しているその時、ライター船橋が目を真ん丸にして興奮し出した。
!!!
「あぁあああああああ! 田島さんのハンチング、L'Arc~en~Ciel (ラルク アン シエル)って書いてません?ビジュアル系バンドがよく使う独特なフォントだし、TOUR 2005って書いてるし!」
「え、ラル…って、何それ? 知らないよ、そういうのは。これはお客さんからもらったもので、ここ2年ほど愛用しているものなんだよ。通気性がよくって気に入っているよ」
そんなイカしたハンチングを被った田島さんによって、静かに運ばれてくるプリンア・ラ・モード。
窓際の席で光を浴びた一品は、自家製プリンに生クリーム、フルーツ盛りだくさんでめちゃくちゃ素敵。素敵ナンバー1だ、これは。
対面!
「んぁああああ。生クリームもほどよく甘くてうんまい! そしてなんといっても手作りプリン、激的においしい。なんで、ねぇなんで!」
「普通だっての(笑)。ただ普通の材料で普通に作ってるだけの普通のプリンだよぉ」
本当においしいのに、その味を「普通」だと言い放つ田島さん。たしかに普通なのかもしれない。このレトロな雰囲気に飲まれているだけかもしれない。
いや、そうじゃない。
このレトロな空間まるごと味わっているからこそ、感動的な美味しさを感じているのではないか。
この高崎でこんなステキな空間をつくり続けている田島さんに、今後のお店の行く末を尋ねたい。それも食後のコーヒーを注文しつつ。
厨房に戻った田島さんが、コーヒーを入れた鍋に入れた火をかける。聞くに田島さんにとってのコーヒーは、少年期に高崎の旦那衆たちから教わった思い出の味だという。目の前に運ばれてきたそれは、見るからにあっつあつだけど、それがまたいい。
「あの、こちらのお店、後継者とかいるんですか?」
「そんなのいないよ。娘がいるけど、やらせるつもりもないし、向こうも継ぐ気もないと思うよ。このビルは妻が買い取ってくれたものだから、もしやりたい人が名乗りでてくれて、お金をしっかりと払って買い取ってくれるなら引き渡してもいいよ。今なら3階もあいてるし、昔のように吹き抜けに戻したっていいよ。お店は買った人のもになるんだから何したっていいの。お金を出さないものは口も出しちゃいけないしね」
「お金のある人、誰か買い取って!」
最後に「マッチを持って帰りたい!」と、だだをこねたライター船橋の手には、袋入りの無数のマッチが。東京に持ち帰って配って歩こうではないか。
田島さんの太陽のように笑顔につられて、こちらまで笑顔になってしまう名喫茶「コンパル」。どんな質問にも、とっても優しい笑顔で受け入れてくれる田島さんご夫婦に拍手を贈りたい。フォーエバー、コンパル。
fin……
No.15
コンパル
027-322-2184
8:00~17:00
不定休
群馬県 高崎市 鞘町 62
JR高崎駅西口より徒歩10分
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