菓子職人からの華麗なる転身
群馬カレー界のゴッドファーザー「至極の一皿」
菓子職人からの華麗なる転身
群馬カレー界のゴッドファーザー「至極の一皿」
「高崎に群馬カレー界のゴッドファーザーあり」。そんな情報をキャッチした絶メシ調査隊。ドンは、信越本線北高崎駅から2キロの地点で「カリーのからゐ屋(からいや)」なるカレー店を営んでいるらしい。さらに綿密なリサーチを重ねたところ、この「からゐ屋」は「群馬が誇る隠れた名店」で、狂信的なファンも少なくないんだとか。そこで今回は絶メシ調査隊一、カレーにうるさいライター吉田が突撃した。
「こんにちは!絶メシ調査隊の吉田と申します。私、生まれも育ちも埼玉県さいたま市。ライター稼業を営んでおります。正直言って高崎のことは全然知りませんが、なんの因果か絶メシ調査隊に入隊し、高崎の名店を訪れる事となりました。ドンに失礼なき様、一生懸命に努めさせていただきます!」
高崎駅から三国街道を北上、高崎環状線を左折するとスーパーマーケットチェーンの駐車場が見えてくる。その一角に店舗を構えているのが「からゐ屋」だ。
パッと見た感じは、非常にこじんまりとしたお店。ぶっちゃけ名店の風格は感じられない。不安に襲われる絶メシ調査隊一行。しかし入店した瞬間に空気は一変する。
ドアを開けた瞬間に「フワァ~」っと鼻腔をくすぐる芳しいスパイス香。
う~ん良い香り。「これは期待できるかも!」と一行が盛り上がる中、ゆっくりと店の奥から現れるゴッドファーザー。例のテーマが脳内を駆け巡る。宮内信正さんである。
ダーッハッハッ!!
「お店に入った瞬間にスパイスの豊かな香りが漂ってきました」
「よく言われんだよ!でも自分じゃ全然分からないんだ!もう鼻がバカになってんだよね!ダーッハッハッ!」
「(すげえ早口!そして声がデカイ!これが上州男なのか!)こ、こちらは、どんなカレーを出されてるんでしょうか?」
※とにかく元気だった宮内さん。その言葉を忠実に文字にするならば、全ての語尾に「!」をつけるべきなのだが、流石に暑苦しいのでココからは割愛。
「玉ねぎで練っているので、一応『インド風』とは名乗っていますが、本来インドカレーはスープを使わないんです。ウチは鶏ガラスープを使ってカレーを伸ばしています。ですから全く独自のカレーですね」
「なるほど、インドカレーでありながら、スープカレーでもあるんですねえ」
「健康食品であることを心がけているので、化学調味料は使わない。味付けは塩と酢とスパイス、あと肉汁だけ(キッパリ)」
「スパイスの調合に関しては、どのように勉強されたんでしょうか?」
「スパイス専門の本、それと料理の本でカレーを扱ってるものは随分読みました。主に使ってるスパイスは13種類くらい。あと肉によって炒める時にまぶすスパイスを変えてます」
「野菜の切り方に特徴があるとか」
「女の子でも一口で食べられる様に細かく切ってます。ガブッと食うんではなく、スプーンで口に運べる様にね」
「ご飯へのこだわりも強いと聞いています」
「一度研いだ米を乾かして、昔の天日干しに近い状態にした後で、固めに炊いてるんです。カレーのご飯は固くないとダメ!お客さんからも『お新香だけで食えるよ』って褒められますね。それじゃ商売にならねえよ、ダーッハッハッ」
店内に漂うスパイスの香りと宮内さんのカレートークを聞いてるうちに、空腹も我慢の限界が近づいてきた。ちなみに同店では辛さがお好みによってかなり細かく選べる。宮内さんのオススメは、特辛(10倍)まで。「それを超えると原液の味がかなり薄くなっちゃうんだよ」と宮内さん。ちょっと辛いのが好きなら、5~6倍あたりが良いとも。
ということで、今回は、ポーク3辛、ミックスラム6辛、ミックスツナ10辛の三品をオーダーしてみた。
そして来たけど…
このライスのボリューム、なに?
そしてカレーもサラダもスープもきた。
実に具だくさん。
パクっとな。
「っていうかこれ、メチャメチャ美味いっすよ。歯ごたえと噛み易さを両立した絶妙なサイズのラム肉、スイスイ食べ進められる賽の目切りの野菜、パラパラに炊き上げられた固めの御飯が、辛いだけでなく芳醇な香りが楽しめるカレースープに絡んで…。こりゃあ無限に食える。いや、飲めますね」
「喜んでくれて良かった。ちなみに肉をダブルにしたり、ツナを追加したり、あとはルー大盛りなんかもやってるから。通常はプラス100円。エビとか高い食材は150円から200円」
ライター吉田の本気の賞賛に反応したのか、「ちょっと食べて良い?」と、カレーに襲いかかる絶メシ調査隊スタッフの面々。吉田が食べるべきカレーを、みんなで食べ始めた。カメラマンのI氏はすでにカメラを手にしていない。
「コラコラ!撮影前のツナカリー(700円)を食べちゃダメだって!『あ、食べます?』じゃないよ! おい、キャメラマン! ちゃんとカメラを構えろ! みんな仕事しろよ!」
カレーに貪りつくスタッフから、わずかに残された「ポークカリー」(750円)を奪い取って食べる吉田。ウン、やっぱりヒレ肉は柔らかい。ラム肉が苦手な人にはこちらがオススメかも。
さらに「ミックスツナカリー」(800円)にもトライ。10辛ともなってくると、かなり唐辛子の風味が目立ってくる。たしかにご主人のスパイスミックスを堪能したければ、この辺りが限界かも。なおランチ、ディナータイム共に、全てのカレーには特製ドレッシングがかかったサラダとスパイス入りの鶏ガラスープが付属する。これがまた美味いのだ。
「サラダとスープもめちゃくちゃウマいですね」
「スープにはスパイスが4種類入ってます。サラダにかかってるのは、マヨネーズにヨーグルトとレモンを絞ったオリジナル・ドレッシングですね。随分評判が良くて『教えてくれ』って人も多いんです。カレーの方はともかく、このドレッシングには自信持ってんダーッハッハッ」
「失礼ですがお歳は?」
「74だね。この店のオープンは1983年から。34年経ってるんですよ。その前、私は洋菓子屋さんだったんですよ。で、この店を始めるにあたって、周りを調べた結果、カレー屋がなかったんです。それで『じゃあ一丁研究してやってみるか』って思ったんだよね」
「未経験で、しかも40歳からカレー屋を始めるって相当な勇気がいると思うのですが」
「人一倍どころか人三倍くらい勉強はしましたよ。本も読んだし、都内のカレー屋さんは大体行った。そりゃもう散々食ったね」
「ちなみにどこのお店が印象に残りました?」
「渋谷のムルギーと新宿の中村屋だね」
「それだけ熱心だとオープンから順風満帆だったんじゃないですか?」
「全然ダメですよ。店を始めた頃は小麦粉を使ったドロッとしたカレーが当たり前の時代ですからね。お客さんも『これがカレーなの?』ってたまげるわけですよ」
「そんなからゐ屋さんがブレイクするきっかけとなったのは?」
「30年近く前に『カレー博覧会』ってのがあって、頼まれたんでツナカレーを出してみたら評判になったんです」
「それ以来ずっと儲かってるってことですね!」
「これが儲からねえんだよ(笑)」
「安いですもんねえ。値段の設定に問題がありますよ」
「値上げしようとは思ってんだけどね。なんだかんだで結局そのまんま」
実は、宮内さんは2003年に交通事故で、大腿骨二箇所を骨折する大怪我を追っている。結局、立ち仕事が困難になり創業以来唯一、長いお休みを余儀なくされる。休んだ期間は実に8か月。当時“アラ還”だった宮内さんからすれば、現場復帰も危ぶまれるほどの長期の戦線離脱であった。
「30年超の歴史を持つからゐ屋にとって最大のピンチだったのでは?」
「まあね。でも休業中、店の表に『交通事故のため休みます』って大きな張り紙をしてたんですが、そこにお客さんが『頑張れ!』とかって書き込みをしてくれてねえ。あれにはちょっと感激しちゃった。もうやるしかないよな。今もプレートとビスが入ってるし、後遺症で膝が曲がんないんだけど、まあ毎日がリハビリみたいなもんだよ」
「ホント豪快ですよね。でもそんな状況だと後継者や弟子とか欲しくなったりはしませんか?」
「う~ん。今のところ思わないかなあ。ただ、熱意がある人にはレシピを教えることにしてんです。中には本当にほとんど同じ味で店を始めたのもいたんだけど続かなくてね。一年もしないで辞めちゃったんじゃないかなあ」
「それ、残念ですね。でも、ご主人、こんなウマいカレーのレシピを教えてくれるなんて懐深すぎですよ。そんなにオープンなら、レシピをこのサイトで公開してみません? この味が高崎に残るなら、それも素晴らしいことだと思うんですけど」
「いや、それは止めとく。そういう手軽に知りたいってのは違うよな。弟子だろうとレシピだろうと、コッチが何言ってたってやる気がある人は店に来るでしょ?その時に考えますよ。ただ最初に『儲かんねえから止せ』って言うと思うけどね(笑)」
「弟子は募集してない」と言いつつも、熱意にほだされて、ついついレシピを教えてしまうという宮内さん。多くの人に愛されるのは、味だけでなく人柄によるところも大きいのだろう。それにしても、ここのカレーは本当にウマい。思わず帰路乗ったタクシーの運転手さんに「絶対食ったほうが良いっすよ!」とレコメンドしてしまったが、よくよく考えると地元の人だったら食ってるか……つーか、食ってない高崎市民がいたら、絶対損してるからな!
最後にライター吉田的には「ミックスラム」の6辛が至高だ。しかも、ルー大盛りのラム肉ダブル。ビールとの相性も間違いない。
ここにもあったか、絶品高崎グルメ。絶やすなよ、高崎市民よ!
No.07
からゐ屋(からいや)
027-362-8898
11:30~15:00
17:30~20:00
火曜(第3火水・第4火水連休)
群馬県 高崎市 下小鳥町 67-5
北高崎駅から1,795m
絶メシ店をご利用の皆さまへ
絶メシ店によっては、日によって営業時間が前後したり、定休日以外もお休みしたりすることもございます。
そんな時でも温かく見守っていただき、また別の機会に足をお運びいただけますと幸いです。