高経大生が通い詰める学生食堂からさき食堂

No.20

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一口食べれば「あの頃」が蘇る
45年間、高経大生が通い詰める学生食堂

大学生はカネのない生き物である。特に実家を離れ大学近くで下宿している者たちといったら相当にカネがない。そうでないケースもあるだろうが、ここではそういうことにしておいていただきたい。カネがないから食費を削りたいが、大学生はまだまだ育ち盛りで腹が減る。そんな彼らにとってありがたいのが、どんな大学の近くにもかつては必ず数軒あった、安くてボリュームたっぷりの食堂だ。今はかなり減りつつあるこの手の食堂だが、学生たちの間で代々継承され続け、今も営業を続ける学生食堂が高崎経済大学の近くにあった。2代に渡って愛される、学生食堂へいざ!

(取材/絶メシ調査隊 ライター田中元)

取材3日前に店主が階段から転落
心配した調査隊であったが…

写真ライター田中

「カラオケの十八番はムッシュかまやつの『我が良き友よ』で決まりのライター田中です。あの歌に登場するような思い出深い硬派な友人が現実にはいませんでしたが…ええ、いつもひとりです(震え声)。というわけで、そんなタイプの熱い学生がたむろしていたであろう食堂を求め、高崎経済大学近くの下小塙町へ向かいました」

市道高崎環状線から脇道に入ったところに突如現れるペンション風の建物。こちらが今回訪れる「からさき食堂」である。

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『Dr.スランプ』のペンギン村にありそうな「からさき食堂」の建物。ちなみにこちらは平成3年に移転した新店舗だ

実はこの取材、一度延期になっている。2代目店主の大山瑞枝さんが(前回の)取材予定日の3日前に自宅の階段から転落。歩行困難なほどのケガを負ったため、仕切り直して今回改めて伺った次第だ。

とりいそぎ瑞枝さんの体調が気がかりである。ホントに取材できるのだろうか、と心配しながらドアをあけてみたところ……

とっても元気だった。

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こちらが店主の瑞枝さん。大好きな韓流スターのポスターを前ににっこり

写真ライター田中

「お元気そうでなによりです! 電話で“階段から落ちてケガをした”って聞いたときは、最悪のことも覚悟したくらいです」

写真瑞枝さん

「今日はご苦労さまです。まだ、足に痛みは残ってますけどなんとか大丈夫です。あのとき、少しだけ仕事を休んだんですけど、大好きな韓流グループのコンサートには足引きずりながら行きました! 最高のライブでしたよ!」

写真ライター田中

「お、おう…」

下駄を鳴らして奴が来そうな
下宿界隈のバンカラ食堂

とりあえず瑞枝さんの無事を確認したところで、まずはこの店を創業した“ゴッド婆ちゃん”こと先代の大山わくさんにご挨拶をしに行こう。

現店舗から歩いて2~3分の場所にある「からさき食堂」旧店舗兼自宅。現在は純然たる居住スペースだが、かつての「からさき」の看板文字が残る。

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からさき食堂旧店舗。現在は大山さんの自宅となっているが、かつての学生さんがこちらにお邪魔することも多々あるという

出迎えてくれたのは先代で創業者の大山わくさんと、次女の清水信子さんだ。信子さんは2代目と共に店を切り盛りしている。一方のわくさんは5年ほど前まで現役として活躍後、現在は看板を娘である瑞枝さんと信子さんに託し隠居生活を送っている。

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からさき食堂先代店主の大山わくさん。旧店舗にやってくる数十年前の学生さんと変わらぬ交流を続ける

写真わくさん

「店を始めたのは昭和47年だったかな。もともとは弟夫婦がここで食堂をやってたんだけど、私たちが引き継ぐことになってね。周りは学生向けの下宿だらけなのに食堂もなかったしね」

写真ライター田中

「学生向けの下宿だらけなのに食堂がなかったってことは、相当忙しかったんじゃないですか?」

写真わくさん

「忙しかったねぇ。よくあんなことやり抜いたなって思うよ。でもやってみたらできちゃうんだよね

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怒涛の日々をさらっと回顧するわくさん

部活単位で先輩が後輩を引き連れて一斉に来る。しかもみんな信じられないくらい腹が減っている学生ばかりだ。ひたすらメシをかき込む学生たち。食べ終わると、次に並んでいる学生が一斉に席につく。その繰り返し。もちろん運動部の学生が来たら、有無を言わさずご飯は大盛りだ。

「まぁ、これくらいは食べますよね」と、からさき食堂スタンダードのご飯の盛りを再現してくれたのは、次女の信子さん。

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丼サイズのお椀、盛られた白米、お椀の持ち方、そして信子さんの髪の結い方。学生食堂のおかみさんとしてパーフェクトな佇まいである

写真信子さん

「忙しいときは、ホント、母と私と姉でてんてこまいになりながらやってましたよ(笑)」

写真ライター田中

「それでもできちゃった、と」

写真わくさん

「忙しいときは学生たちが手伝ってくれたからね。というか、自分でどんどんご飯よそっちゃってね。もちろん、こっちからあれやれこれやれって手伝いを頼んじゃうときもあったよ。うちは来て食べるだけじゃなくて、お客さんも一緒に疲れる店なの。でも誰も愚痴なんか言わなかった

写真ライター田中

「家族ですね。いや、部族なのかもしれない」

写真信子さん

「もちろん45年もやってますから、浮き沈みはありますけどね。やっぱり昔のほうが賑やかでした。(26年前に現在の場所に移転する前は)店は自宅に併設されていて店の奥は我が家の居間だったんですけど、居間スペースに入り込んできて私がテレビ見てるのに勝手にチャンネル変えちゃう学生さんとかいました。すごいのになると、勝手口から入って来てうちのシャワー浴びてるのまでいましたね。まぁ、母が許してたみたいなんですけど。ちなみに当時、私はまだ中学生だったんですよ」

写真ライター田中

「女子中学生がいる家に、どこぞの男子学生がシャワー…これ世が世なら、けしからん案件ですよ

写真わくさん

「アハハハ、そんなこともあったねぇ。うちなんて下宿の一部みたいなもんだったから。下宿してる大学生たちは18、9で故郷を離れて来てるから、自分の親みたいな気分で私なんかと付き合ってたんじゃないのかな。『自分ちにいるみたい』なんてみんなよく言ってたしね。そうそう、その頃の学生たちが今でもしょっちゅう遊びに来てくれるんだよ。それが一番嬉しいよね」

写真ライター田中

「わくさん、すでに引退しているのに謁見する卒業生がいるんですか」

写真信子さん

「ええ。店で食事をしてから、“わくさんがいるなら”って自宅にも顔出してくれるんです。そのまま学生時代みたいにここに上がり込んでね。母も昔の学生のことをよく覚えてるんですよ、◯◯くん久しぶり! って次々名前が出てきます」

写真わくさん

「覚えてるもんなんだよ。当時の自分と同い年ぐらいの子どもを連れて来るのもたくさんいるね。自分たちがしていたように、息子にお茶いれさせたりね。みんな台所の配置を覚えてるから、あれこれ息子に指示出してさ」

写真ライター田中

「ここで学生時代をすごした人たちにとっては、それだけかけがえのない場所なんですね」

写真わくさん

「そうであってほしいね。店に通ってた子たちみんなに言いたいのは、近くに寄ったら遠慮しないで顔出してほしいってこと。いつでも待ってるから」

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思い出話が尽きることのないわくさん。いつまでもお元気で!

高校時代から働く2代目は
男子大学生のマドンナ的存在

初代のお話を聞いたところで再び現店舗へ。

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こちらが現からさき食堂店内。奥には桟敷席も。お昼時、夕飯時ともなると昔と変わらず学生たちがたむろする空間へと変貌する

早速、わくさんから店を引き継いだ瑞枝さんに再登場いただこう。妹の信子さん同様、中学高校時代から男子大学生が出入りする環境で生活してきた瑞枝さん。もう、これは絶対おもしろいエピソードを持っているに違いない。

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改めて登場の現店主の大山瑞枝さん。韓流スターと佐藤健が好きなキュートなおかみさんである

写真ライター田中

「先ほど伺ったのですが、こちらのお店のお客さんって男子大学生だらけなわけですよね」

写真瑞枝さん

「そうですね、昔は女子学生が少なめでしたね」

写真ライター田中

「そんな男だらけの客の中で、瑞枝さん信子さん姉妹は女子高生時代から働いてたんですよね。そりゃ、もう大変だったんじゃないですか」

写真瑞枝さん

「ええ、お察しの通り、マドンナ的な存在でしたね(笑)

写真ライター田中

「気持ちいいくらい否定しませんね」

写真瑞枝さん

「とはいえ、みんな硬派でしたから。そして、そもそもメチャクチャな人が多かったから、そんな(色恋的な)ことはないですよ。たとえば、極貧すぎてふりかけだけ持ってきてライスだけ注文する男子学生とかね」

写真ライター田中

「恋に落ちる要素ゼロのエピソードですね」

写真瑞枝さん

「でしょ。そういう学生って、それじゃあんまりだからって余ったおかずを乗っけてあげてたんだけど、ちょっとサービスしすぎて普通に注文したときより豪華になったりしてましたね」

写真ライター田中

「僕が学生なら、その心遣いで好きになってしまいそうですけどね」

写真瑞枝さん

「そうですかねぇ。まぁ、朝から一日中店にいてずーっとマンガ読んでて、朝昼晩食べて夜帰る、なんて人もいました」

写真ライター田中

「いい時代ですねぇ」

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ダメ学生を生み出してしまう豊富なマンガラインナップ

写真瑞枝さん

「今はさすがにそこまですごいエピソードは減りましたけど、学生さんが店を手伝ってくれる伝統は部活単位で引き継がれています。たとえばレジ打ちですね。ラグビー部、ソフト部、剣道部、応援団など、いくつもの部活がずっとやってくれてます」

写真ライター田中

「レジ打ちって、部外者にやらせちゃ一番まずそうじゃないですか」

写真瑞枝さん

「いえいえ、みんなちゃんとやってくれて、問題起こさないですからね。ただ、他の学生さんや一般のお客さんが、部員がレジ打ちしているのを見て『レジの打ち方わからないんですけど、どうしたらいいでしょう』って恐縮されたことはあります」

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信用されている学生のレジ打ちだが、念のための注意書きも

脇目も振らず一気にかっこむべし!
とんでもないボリュームの定食群

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豊富かつ安すぎるメニュー。定食類はほとんどが600円。宴会のための貸切も格安で可能だ(一人3000円で2時間飲み放題、おつまみ10品付き)

写真ライター田中

「それではいよいよボリューミーな食事をいただきたいのですが、学生さん発信のメニューもあるんですか?」

写真瑞枝さん

「学生さんからはネーミングぐらいですね。ホワイトソースをかけたオムライスが『白い恋人』、豚肉と野菜のあんかけは『豚玉ちゃん』。このふたつは学生さんが名前を考えてくれたもの。人気あるのはカツ煮定食。日替わりランチは500円なので、これを毎日頼む人もいます」

写真ライター田中

「それでは『白い恋人』とカツ煮定食をお願いします!」

ということで信子さんも交えて調理スタート!

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超手際よくオムライス「白い恋人」を調理する瑞枝さん

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オムライスにホワイトソースをかけて出来上がり

写真信子さん

「ご飯の量はどうしますか? 大盛り? 特盛り?」

写真ライター田中

「特盛りと言いたいところですが、若くもないので大盛りで!」

写真信子さん

「あら、そうですか(残念そう)」

ということで、もくもくとご飯をよそう信子さん。

そして出されたご飯がこちら。

正気ですか。

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100円増しの大盛りごはん。この上をいく150円増しの特盛りっていったいどんだけ…是非、ご自身の目でお確かめください

写真ライター田中

「大盛りを頼んだ僕が悪いとはいえ、40代のおじさんにこの量持ってきますか…まぁ、あらかた予想はできてましたけど」

とうことで、学生食堂の味、いただきます!

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スープに見えるホワイトソースがたっぷりかかったオムライス「白い恋人」(600円)

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学生気分を追体験するために、あえて『魁!! 男塾』を読みながらの食事だ!

写真ライター田中

「ケチャップの効いたライスをマイルドなホワイトソースが中和して、たっぷり食べても飽きのこない味ですね。こりゃ人気出るわけですよ」

続いてはカツ煮定食。先ほどの大盛りごはんはこちらの定食用のもの。

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カツ煮定食(600円)

写真ライター田中

「汁にどっぷり浸かった卵とじカツの濃厚な甘みで、無謀に思われた大盛りご飯がどんどん減る!どちらのお料理もバンカラ学生っぽい豪快な量と、それでも食べちゃえる繊細な味でした。量も味もこんなに満足できて、しかも安い!学生に愛され続けている理由がわかりました!」

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無事食べ終えてドリンク無料券もゲット!(定食を注文すれば誰でももらえます)

写真ライター田中

「わくさんから瑞枝さんと信子さんがお店を引き継がれましたけど、さらに今後のこと…つまりは後継者についても考えたりしてるんでしょうか」

写真瑞枝さん

「まだ後継者を考えるほど年取ってはないと思うのですが…学生に『おばさん』って呼ばれたら『おねえさん』って訂正させてますから(笑)。といっても、ついこの前、私の孫が生まれたんですけどね。なので孫世代が跡を継げるぐらいまではやろうかなとも考えてます。私の子どもも娘だったら跡継がせることを考えたかもしれないけど、息子なんですよね。こういう店ってきれいどころがやるべきでしょ(笑)。孫も男の子なので、孫のお嫁さんに期待ですね」

大学生のライフスタイルはこの45年で大きく変化している。しかし、からさき食堂は、あの時代のままのスタイルを維持している。お孫さんが生まれたといいながらも瑞枝さんも信子さんもまだまだ数十年は続けられそうに元気だし、先代のわくさんもかつての学生相手に楽しそう。古き時代と人は言うが、今も昔と私は言いたい。現役の高崎経済大学の学生さんのみならず、OBOGのみなさんも、懐かしの学生食堂の雰囲気を味わいたい方も、夢を抱えて旅でもしないか、あの頃の面影残すからさき食堂へ!

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取材・文/田中元
撮影/今井裕治

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