結構美味い町中華味の栄珍

No.37
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控えめなご主人が作る
結構美味い町中華の店を
全力で食い尽くす

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色あせた赤い暖簾、黄ばんだアクリルケース、古びた食品サンプル…どの街にも一軒はある、昔ながらの中華食堂「町中華」が注目を集めている。特に都会で暮らすお疲れ気味の方々には、しっとり系チャーハンやシンプルな醤油ラーメンの優しくも懐かしい味が琴線に触れまくるということらしく。というわけで今回は、高崎郊外にひっそり佇む町中華の名店を案内します!

(取材/絶メシ調査隊 ライター名/吉田大)

キャリアのスタートは
ミスターが巨人に入団した年

写真ライター吉田

「さて、高崎になかなかイイ感じの町中華のお店があるらしいんですよ。そもそも一口に『町中華』といっても様々ありまして、ラーメンやチャーハン以外が美味いなんてケースも少なくないんです。そしてラーメン専門店に比べて圧倒的にメニューが多いのも『町中華』の特徴。今回訪ねるお店『味の栄珍』さんも相当メニューが豊富との噂です。どのくらい豊富かというと、なんとハヤシライスを出してるんですよ。中華屋なのにハヤシ。一体どういうつもりなのか、と。これはもう直接足を運んで問い詰めるしかない!」

というわけで、南高崎駅から徒歩20分ほどの場所にある中華料理店・味の栄珍にやってきたライター吉田率いる絶メシ調査隊。

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ロードサイドのお店らしく、とにかく通行する車へのアッピール力が高い外観

ひょっこり

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この日は某テレビ局の取材が入ると聞いて、精一杯爽やかな格好で登場したライター吉田。所詮は焼け石に水。怪しさは隠せっこない

ご主人の大泉光男さんは昭和17年生まれの76歳。新潟は新津の出身で、高崎で開業される以前は、東京・神田小川町の中華食堂で修行をされていたとか。

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大泉光男さん(76歳)。実におっとりとした、控えめな語り口だが、料理の話になると、いきなり前のめりになる職人気質な一面も

写真ライター吉田

「まず、飲食業界に足を踏み入れた経緯からお聞かせいただけますか」

写真大泉さん

「中学を卒業してすぐのことだったかな。地元(新潟)で近所に住んでいた女の人が東京・日本橋で中華調理店を経営してる方のところに嫁に行ったんですよ。で、そのお店が支店を出すんだけど人手が足りないってことで、私のところに話が来たんです。あれは長嶋が巨人に入団した年ですから、昭和33年(1958年)のことでした」

写真ライター吉田

「ある意味ミスターと同期! お店に入ってみてどうでした?」

写真大泉さん

「一番下っ端から始まったんで、最初は大変でしたよ。お店があったのは、御茶ノ水の東口でね。ずっとそこで働いてたんですが、東武線の五反野駅に支店を出すというので、開店の段取りもしていました」

写真ライター吉田

「調理だけでなく、開店のノウハウも学んだんですね。で、高崎に来たのは?」

写真大泉さん

「昭和41年(1966年)の夏でした。東京の店で一緒に働いていた掛川さんという方が先に高崎でお店をやってたんです。その方が『自分の店を持つなら地方都市の方がやりやすいし、高崎なら色々教えてやれるよ』って言ってくれたんです。まず街の雰囲気を知るために、ちょっとだけ掛川さんのお店を手伝いまして、その後、ここの向かいでお店を始めたんです。駅からは少し距離があるけど、街中は家賃が高かったんでね。で、昭和43年(1969年)3月に、土地を買って今の店を建てました。25歳の時でした」

写真ライター吉田

「49年前からここで! 当時からメニューは変わっていないのでしょうか?」

写真大泉さん

「うん。作り方も含めて変わってないね。ちなみに壁にかかっている額入りのメニューは、開店祝いとして掛川さんからいただいたものなんですよ」

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三枚の額入りメニュー。年季が入りまくっている

写真ライター吉田

「実は来る前から気になっていたんですが…メニューに『ハヤシライス』があるのはどうしてなんですか? こういうお店じゃ珍しいですよね?」

写真大泉さん

「実は…掛川さんにいただいたメニューに書いてあったもんで、仕方なく始めたんです」

写真ライター吉田

「えっ」

写真大泉さん

「作ったこともなかったんですけどね。まぁ、でもメニューには書いてあるし……どうにか作って出してますよ

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ちなみにハヤシライスには中華風のアレンジがしてあり、ファンも多い逸品だ

まさかの作り置き!
ラップに包まれた満漢全席

もっとも気になっていた魅惑のメニュー「ハヤシライス」は兄弟子のムチャ振りによって生まれたことが判明。ただでさえ町中華でハヤシライスってだけで引きが強いのに、メニュー誕生のおもしろエピソードを聞いたからには食べずにはいられない! ってことで、鼻息荒くオーダーしたものの、ご主人は「え、ハヤシライス? 食べたいの? でもなぁ……」と気が乗らない様子。

え、なんで?

写真大泉さん

「実はもう何品か作ってあるんだよね」(最高の笑顔で)

写真ライター吉田

「えっ」

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ニコニコ顔でラップがかかった皿を次々テーブルに並べ始める大泉さん

先ほどまで元気一杯だった絶メシ調査隊員たちに重苦しい空気が流れる。

(えっ…作り置きかよ…)

(冷めてんじゃね…?)

(湯気が撮れないって…)

※以上、吉田ほか絶メシ調査隊同行スタッフの心の会話

写真ライター吉田

「こ、こちらがオススメの料理ということですか。そ、それにしても随分たくさん作っちゃいましたねえ…」

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とはいえ、ラップをとってテーブルに並べてみれば、意外と美味しそうではある。まあ期待しないで胃袋に入れていこう

まあ伸びちゃったらアレなんで麺類から……(もう伸びてるだろうけどね)

まず一品目は
\「ヤワラカイヤキソバ」/

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ヤワラカイヤキソバ(530円)

目がテン。

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これはなあ…

テンションダダ下がりのまま、気のないバキューム。

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ちゅるちゅるちゅる

写真ライター吉田

「あれ、うまいんだけど」

確かに「シコシコ」「モチモチ」とは絶対に呼べない。確かにヤワラカイ。しかし、その食感は決してイヤ〜な感じではない。出前やテイクアウトが多いとのことなので、時間をおいても美味しく食べられるように工夫されてるのかも。

ちなみに味に関しては、ソース味控えめのソース焼きそば。野菜の出汁も手伝って、やや甘みを感じる仕上がりだ。また脂控えめで、非常にアッサリ&スンナリ食べられるのが特徴。

写真大泉さん

「ソースは専用のものを使ってますが、一般的なソース焼きそばですよ。具は豚肉、キクラゲ、キャベツ、人参、もやし。隠し味は日本酒ですね。麺はラーメンと同じものを、せいろで蒸して、その後に茹でて、最後に炒めてます」

続いていただいたのが…
\「肉野菜イタメ」/

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ピリ辛の「肉野菜イタメ」(630円)。豚の名産地・群馬らしくゴロッと大きめの肉に衣をつけて揚げている。主張が強くないが毎日食えるニクいやつ

写真ライター吉田

「う、これも結構うめえ…。野菜炒めは食感が命。かと言ってガシガシ噛まなきゃいけないのも辛い。が、この野菜炒めはシャキシャキ食感は残しつつ、そんなにガンガン噛まなくてもいい。そしてバッチリとスープが効いてますね。これはプロの犯行ですよ!」

続いてのメニューは中華の定番
\「スブタ」/

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「スブタ」(1150円)。野菜炒めと同じく、一度揚げた豚肉をさらに炒めている

写真ライター吉田

「この酢豚、揚げ物は全部豚肉だと思いきや、半分はサツマイモ。相当ガッツリ腹にたまります。とはいえトマトソースの控えめな酸味も手伝って、爽やかに食えちゃう。しかも繊維質豊富なサツマイモを使ってますからね。ヘルシーなわけです。それにしても結構なボリューム。何人前なんだろ…」

写真大泉さん

1人前です。うちは職人関係のお客さんが多いからね。盛りは多めなんだ」

続いては「かに玉」のカニの代わりにチャーシューが入っている甲殻類アレルギーの吉田にはありがたい逸品
\「肉玉」/

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「肉玉(850円)」。こいつは見た感じあっさり系であろう

あっさり味をイメージしつつ口の放り込むと…

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そーれ!パクッとな!

写真ライター吉田

「またも美味いなオイ! 具は細切りチャーシューと椎茸。そのダシがしっかりと卵に染み出してます。餡にもしっかりとダシが効いてて…ドッシリした味わい。こりゃ今日イチかも!」

写真大泉さん

「肉玉のあんかけにはラーメンと共通のスープに塩胡椒を振って、あとは片栗粉とろみをつけてます」

ご主人! やるじゃないですか! そして最後は町中華の王道メニューでシメましょう!
\「チャーハン&餃子」/

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チャーハン(580円)&餃子(370円)。これもラップかけると水蒸気を吸ってアレな感じになりがちなメニュー

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チャーハンと餃子の組み合わせは最強。異論は認めない

餃子の餡はキャベツが7割に対して白菜が1、そこにニラと豚肉。舌触り良くみじん切りされた野菜の甘みも手伝って、結構サラッと食える。

続いては先ほどまでラップに包まれてたチャーハンにトライ。恐る恐る口に放り込む吉田。

「ベチャ」っと来ることを想定して口に放り込んでみると……

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パクッとな! …おや!?

ピコーン!(←センサー反応)

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「あると思います!」

写真ライター吉田

「これもバッチリっす。シットリはしてるけど、ちゃんとパラパラしてて、かつ油でベタベタはしてない。具は、チャーシュー、卵、ナルト、ネギですよね。塩気はそれほどでもないんですが、中華スープがしっかり効いてるから味は深い。で、コメが美味い!」

写真大泉さん

「ふふふ。スープには気を使ってるんだよ。鶏ガラと豚骨をベースに野菜を沢山入れて、しつこくならないようにしているんです。チャーシューには県内産の豚肉を使ってますね。お米は新潟のコシヒカリ。実は新津の実家にいる妹から送ってもらってるんです」

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「新津の米は信濃川じゃなくて阿賀野川の水を使ってるんだよ。だから美味しいの」と軽めのお国自慢をキメるご主人

写真ライター吉田

「良いお米を使ってるんですねえ。しかもそのお米の良さを炒めることで殺すことなく、しっかり引き出してる」

写真大泉さん

「うちは油をあんまり使ってないからね。油をたくさん使うと作るのは楽なんですよね。でもしつこくなるから」

写真ライター吉田

「油で米の旨さが消えちゃいますもんね。そして油をたくさん使わずとも、パラパラのチャーハンを作れるのは、料理人の腕が良いから!分かってますよ!」

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「いやあ(照)。そんなに美味いかい?そんならもっともっと作るよ!」

ライター吉田のマジ褒めに気を良くしたのか、この発言の直後からすごい勢いで鍋を振り出す大泉さん

すでに結構食わせていただいたのですが……。

そんなの関係ねぇ!!

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料理人魂に火がつき、ものすごい量のチャーハンと焼きそばを作り始めるご主人

一心不乱!

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実はマッチョな光男さんの上腕二頭筋が盛り上がる!

もう誰も止められない!

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ガッコン!ガッコン!うなる中華鍋!宙を舞う新潟産コシヒカリ!

完了!

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キラーン!輝くお玉!鮮やかな手つきで素早くチャーハンが盛り付けられていく

出していただいたものは(可能な限り)綺麗にいただくのが絶メシ調査隊の掟。とはいえ、今回はライター吉田だけでは到底完食は不可能である。ということで、同行スタッフで即席町中華パーティを開催。

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画面からだと見切れるほどの皿の数

ここの料理は正直美味い。目新しい工夫や力強い個性があるわけではないが、控えめに寄り添ってくるような、それでいてちゃんと美味い、そんな味だ。

そんなことを確かめあいながら、見事完食(一切やらせ&持ち帰りなし)。

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というわけで、スタッフの皆さんに手伝っていただきつつ、ドヤ顔で完食!(なお食べきった量はこれ以上)

こういう店でしか気づけない
“地味ウマ中華”のすごさ

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作りたてチャーハンは当然ながらパラパラ感マシマシである

これだけ多彩なメニューを取り揃え、その一つひとつが安定して美味いって凄いこと。ちゃんとした修行を積んだ料理人が作った料理とは、地味でもちゃんと美味しいものなのである。腹がはち切れそうになりながらも、食後に話を聞いた。

写真ライター吉田

「ごちそうさまでした!美味しいだけじゃなくて、何だかホッとする味でした。料理に派手さとか刺激を求め過ぎるあまり、大事な何かを見失ってたのかなあ、なんて反省しちゃいましたよ」

写真大泉さん

「私は単純にそういう料理しか作れねえんだよ(笑)」

写真ライター吉田

「ところでこちらには後継者はいらっしゃるんですか?」

写真大泉さん

「息子が二人いるんだけど、ダメだねえ。やっぱり親父が朝から晩まで働いてるのを見てるからねえ」

写真ライター吉田

「こういう町中華のお店って、地味で厳しい修行をしないと成立しないのに、世の脚光を浴びにくいですもんねえ。丁寧に作ってるのに、味に派手さがないばかりに、正当に評価されなかったりする」

写真大泉さん

「例えば餃子なんかにしても、もう焼くだけのやつがあるじゃない? でもさ、そんなもん出しても意味がねえからさ。楽を覚えりゃいいんだけど、それも出来ねえから。まあ大変だよ」

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言っちゃえば天然っぽい方なんですが、料理の話になると途端に職人の顔になるんですよねえ。渋い!

写真ライター吉田

「今の若い人に昭和と同じノリで働けって言っても難しいんでしょうね。でも後継者は欲しいですよね?」

写真大泉さん

「何十年も自分でやりたいようにやってきたから、そんなに欲しいとも思わないねえ」

写真ライター吉田

「え〜。肉玉とかすげえ美味かったすよ。おかずの中で軽んじられがちな卵焼きの実力を思い知らされる絶妙な味でした。なくなったら寂しいです!」

写真大泉さん

「(前のめりで)でしょ!?ご飯のおかずになるってことは、かなり意識してるからさ。ちなみに天津丼とかもその味だからさ。オススメだよ!」

(ガタッ!)

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作ろうか?食べてみる?(俄然やる気)

写真ライター吉田

「ご主人、さすがにもう食えないし、僕が言いたいのは、この味を、この店を誰かに継承して欲しいってことです(笑)」

写真大泉さん

「あ、そういうことね。まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどねえ」

写真ライター吉田

「この記事を見て『弟子にしてください』って人が来たらどうします?

写真大泉さん

「真面目に答えると、我々の時代みたいに覚悟を決めて入ってくる人がいますかね? やっぱ『目で見て盗め』みたいな職人の教えもあるしね。教えるのは良いけど、店を開けるまでの力をつけるまで、本人が我慢できるかどうか……」

写真ライター吉田

「確かに修行は楽ではなさそうです。ちなみにご主人は6年くらい修行をされてたわけですよね。最低でもそのくらいはかかる?

写真大泉さん

「いや、そこまで時間はかからないと思うよ。まあ一生懸命やればの話だけどね。ただ、私の体がいつまで持つかが問題なんですよね。弟子を取るとしたらある程度責任もあるしさ。取っても教えきれるかなって。まあ我々は1日1日を凌ぐ商売だからね。とにかくその日1日頑張って、また次の日も頑張ってという感じで、出来る限り続けていきたいとは思ってます

なんだかんだでB級グルメ的に見られがちな街の中華食堂だが、ラーメンやチャーハンなどの定番メニュー以外の料理を頼んでみると嬉しい発見があるもの。もっとも町中華にだってピンキリはあるわけだが、味の栄珍さんは間違いなくピンの方であろう。

ちなみに、あんなに食べたのに、次の日にまた食べたくなったのはここだけの話。とりあえず今度行った時は絶対にハヤシライスを食べなければ。

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取材・文/吉田大
撮影/今井裕治

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