“文系道楽の極み”的空間蔵人(クラート)【事業承継成立】

No.36

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ご主人のイイ趣味を詰め込んだ
倉賀野のジャズ喫茶「蔵人」
突如として閉店!その真相は!

高崎が誇るジャズ喫茶「蔵人」を覚えているだろうか。ジャズ&美術マニアのご主人が、長年にわたる道楽の成果を、リノベした蔵に詰め込んで営業していた渋〜いジャズ喫茶だ。なぜ過去形かというと、2019年2月に閉店してしまったから。あのナイスな空間が…残念すぎる。なぜ店を閉めることにしたのか? そしてご主人は元気なのだろうか? 後継者は? いろいろ聞きたいことは山ほどあるぞ!

(取材/絶メシ調査隊 ライター 吉田大)

お客さんが増えていたのに
閉店してしまったのはナゼ

ライター吉田
「絶メシ調査隊の吉田です。今回再訪させていただく“蔵人(クラート)”さんは、美容室経営で一発当てたジャズマニアの根岸蔵人さん(74歳)が、財力とアングラカルチャー全盛期、1960年代の東京・新宿で培ったセンスを総動員して作り上げた“男の隠れ家”的なジャズ喫茶です。店内を見回せば、オーディオにこだわりまくっているだけでなく、絵画、骨董、レコード、書籍はもちろん家具に至るまで、そこらへんに並んでるブツも含めてイチイチ素敵。にも関わらず押し付けがましさはナッシングで、誰にとっても居心地良い“文系の極み”的なスペースでした。しかし2019年の2月に突如閉店しちゃったそうで…。近所にあれば毎日通っちゃうこと請け合いのウルトラリラックスできるお店だったので、わりとガチで肩を落としての再来訪となりました…」

そもそも、この店は建物も土地も根岸さんの持ち物で、今すぐ閉店する理由なんてなさそうだったのに。一体なぜこんなことになってしまったのか…。

 

「奥さんがジャズ道楽に愛想を尽かしたとか」

「骨董品を買いすぎて借金まみれになったって線もありえる」

「考えたくもないけど、ご病気とか」

 

縁起でもないことを考えながら、店の前でモジモジしていると、中からオーナーご夫妻が。

あれれ? 意外と元気そうじゃないですか。根岸さんは前回の不良っぽいコーディーネートとは打って変わって爽やかな出で立ち。奥様の由美さんも以前よりお元気そうです。アクセサリーをターコイズで統一しちゃったりなんかして、相変わらず仲が良さげ。
営業はしていないとはいえ、以前と基本は変わっていない店内。聞いたところ、閉店後も根岸さんはお店にやってきてスピーカーの変更や追加、本や調度品の位置を変えたり(そして戻したり)しながら、充実した道楽ライフを続けているとか。う、羨ましい。
根岸さん
「最近は20代の時に買ったスペンドールの小型スピーカーを〜(中略)〜英国製でアルテックとかJBLに比べれば音はモワッとしてて〜(中略)〜クラシック音楽用だからバイオリンとかチェロの音が〜(中略)〜ちょっと音量上げて聴いてみようよ(※かなりいい感じのテンションで五分ぐらい喋ってくださいましたが割愛)」
ライター吉田
「たしかに良い音。耳が癒やされますわ…。じゃなくて!な〜んで閉店しちゃったんですか!まさか店を手放しちゃうとか!? 後継者問題はどうなったんですか!?」
根岸さん
「後継者問題がどうなったかって? それを解決するために来てくれたんじゃないの?」
ライター吉田
「えっ」
根岸さん
「えっ」
ライター吉田

「いやいや、『えっ』じゃなくて(苦笑)」

「えっ?」(2秒ぶり本日2回目)

根岸さん
「あれ、今日は後継者を誰か連れてきてくれるって話じゃなかったの?」
ライター吉田
「どこでそんな話になったんですか(笑)。今回は閉店をされたということで、その経緯や今後についてお話を聞こうと思って来たんですよ」
根岸さん
「あ、そう(すごく残念そうに)」
気を取り直して、閉店に至るまで経緯について伺っていこう。
ライター吉田
「以前お邪魔したのは2年前の冬でしたよね。記事が出てからの反響はいかがでした?」
根岸さん
「まあ、お客さんは増えましたよね。遠方から来る方も多くて、中には東北の人もいました」
ライター吉田
「にもかかわらず、2019年2月にお店を閉めてしまったというわけですね。儲けようともされていなかったのに、なぜ閉店することを決断されたのでしょうか」
根岸さん
後継者候補も現れないことも含めて、いろいろ小さなことが重なって、もうできないなって思っちゃった。それで、とりあえず喫茶店としての営業は終えることにしたんですよ。でも今は毎日ここで音楽を聴いたり、映画を見たり、贅沢な時間を過ごさせてもらってますよ。もう僕はこの空間とともに死んで行ければ、それで良いかなって思ってる」
ライター吉田

「営業はしていないけど、空間は維持されていると。後継者についてはどうお考えですか?」

根岸さん
「そりゃ欲しいよ。この場所を守りたいって気持ちは変わってないからね。でも、いないんだよ。正直言って、ネットに記事が出れば、もう少し反応があるのかなと思っていたんだけどさ、全然なの(キッパリ)」
ライター吉田
「なんかすいません…」
根岸さん
「はぁ、もう無理なのかな…」

蔵人の「今後」について
いろいろ話あってみた!

絶メシリスト入りで、お客さん自体は増えた。県外からの注目も集めた。にも関わらず後継者候補が現れない。そんなこんなで根岸さんは喫茶店営業終了を決意する。と、いっても蔵人という空間は守りつつ、知人や常連客限定でお店を場所貸しすることはあるようだ。
根岸さん
「『もう店はやめた』と言ってるんだけど、それでも『ココを貸して欲しい』って言ってくださる方がいるんだよね。だから予約制みたいな形で、たま〜に開けているんです。ただ、それも何年も付き合いがあって、信頼関係が出来上がっている方々、あるいはそういった方々からの紹介がある方だけです。ジャズを聴いたり、音楽関係の映像を観る会に利用されることが多いですね。要望さえあれば、今みたいな形では続けていこうかなと思ってます」
ライター吉田
「ちなみにレンタル料はいかほど?」
根岸さん
「会費はコーヒー1杯付きで1000円」
ライター吉田
「安っ!! 商売っ気ゼロですね。でも真面目な話、後継者を探すとなるとある程度稼ぎがないと絶対ダメじゃないですか。少なくともお店の維持費と本人の給料分は稼ぐ必要がありますよね」
根岸さん
「そうなんだよねえ。なんかいいアイデアない?」
ライター吉田
「そうですねぇ…手堅い所で言えば、レンタルスペースですよね。おそらく映画からドラマからコスプレまで、いろんな撮影に使えると思います。そうなると窓口業務が出来る人はもちろん、予約を取るためのフォーマットやWeb サイトも必要になってくるかもしれませんが
根岸さん
「 ふむふむ。NPO みたいな組織があると一番いいんだよね。クラウドファンディングでお金を集めたりして」
ライター吉田
“蔵人ファンティング”的にね(ドヤ顔で)」
根岸さん
「(無視して)ただ、一見のお客さんが、ここにあるものを大事にしてくれるか心配だな」
ライター吉田
「たしかに。これだけ貴重なものがあると、どんな人か分からない人に貸すのは勇気がいりますよね。そのあたりは監視カメラを導入するとか…」
ライター吉田
「根岸さんはジャズ以外にも、長年に渡って民藝やアートを追いかけてますよね。どちらも若い人達の間でブームになっているので、ご主人が講師を務めるジャズやアートについての講座を開催するというのも面白いと思います。サロンみたいな空間にすることは出来るかも」
根岸さん
おお、民藝が好きな若い人達が来てくれたら嬉しいな。僕自身も話をしてみたい。民藝だったり、芸術や音楽に関する読書会とか、そういうサロンみたいな使い方であれば、今でもOK ですよ」
ライター吉田
「もしくは、ど直球ですけど、ジャズ喫茶を再開ってのもアリですよね」
根岸さん
「それが一番だよね。でも、あんまり儲からないけどさ(笑)」
ライター吉田
「たしかに…だた、ここで美味しいコーヒーを飲みながら、良い音楽を聴いて、半日ぐらいゆっくりしていると、驚くほどリフレッシュできると思うんですよ。そう考えるとコーヒーの値段は、もう少し上げていいのかもしれない。あとはカウンターがあるので、お酒も出せば客単価は上がりますよね。たとえばレアなスコッチウイスキーも、この空間でこそ味わいたい人もいると思うんですよ」
根岸さん
「うちのお客さんは車で来るんだよね。まぁ、アルコールを飲む場合は車でのご来店を遠慮してもらうというのも一つの手だよね。一応歩いて7分ぐらいの場所には高崎線の駅もあるし。でも群馬の人って歩かないんだよなぁぁぁ(嘆き)」

今後も後継者が現れないと、いつかはこの空間も無くなってしまう…。正直、それって高崎にとってとても損失ですよ! いずれにせよ、この空間を使った商売を発案できる方、どなたでも結構です! とにかく手を挙げてください。できれば、地元のジャズや民藝を愛する、もしくは興味があるくらいでも良い! そんな若者達の奮起に期待したいです。「蔵人のマネージャーをやってもいい」「あの店を継続できるくらいの儲けを出せる文系っぽいアイディアなら出せる」というあなた! 高崎の文化スポットを守ってみませんか?

取材・文/吉田大
撮影/今井裕治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加