くせになる甘いコロッケ小林精肉店【閉店】

No.54

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甘〜いコロッケ、そして

注文後、一から作るカツが

ヤバいくらいウマい精肉店

今、日本中で大型スーパーやコンビニエンスストアに押されて町のちっちゃな商店、昔ながらの個店がどんどん姿を消しています。時代っちゃ時代だけど、このままなくなっちゃうのは寂しいですよね……。今回ご紹介する小林精肉店さんは、昭和25年創業の町のお肉屋さん。ステキなおじいちゃんとおばあちゃんが心を込めて作ってくれるコロッケやカツが絶品だそうです。全力で応援したい! そんな気持ちで、絶メシ調査隊デビューのライター増山が乗り込んできました!

(取材/絶メシ調査隊 ライター増山かおり)

うちの親父は東京まで
牛を引いて売りに行っていた

餅は餅屋、とはよく言ったもの。これって鮮魚店や豆腐屋、八百屋なんかにも言えることだけど、やはり専門店の味、そしてこだわりはちょっと違う。要はプロなのだ。ただその専門性は一般の人からすれば分かりづらく、また往々にしてそういう店の方々は黙して語らずというか、アピールベタであったりする。ここ小林精肉店もまさにそんなお店。あー、もったいない!

ということで、今回絶メシ調査隊デビューとなるライター・増山かおりが、小林精肉店の魅力、店主のプロ魂を全力で探るため、お店へと向かった。

ライター増山
「みなさまはじめまして、増山と申します。仲の良い友だちからは“柿”と呼ばれています。顔が柿っぽいからという理由だけですが、自分でも柿だなぁと思うことがあります。さて、こちらの小林精肉店さんはコロッケが絶品と伺ってやってまいりました。お肉屋さんのコロッケなんて絶対に美味しいじゃないですか。もう楽しみで仕方がありません」
ワクテカしながらやってきた増山。早速、お店の前であることに気づく。
ライター増山
「こちらのお店、店名フォントが異常にかわいいですね。しかも『肉』の文字が少し沈んでるところとか、やばいくらいキュートです。すでに恋しそう」
たしかに「肉」がなにかに押さえつけられてる様子。

店先で目を輝かせている増山に、店主のご夫妻がお声をかけてくれた。はい、我々は不審者ではなく、取材に来たものです。ご安心ください。

こちらが小林精肉店の店主、小林宏さん(72歳)と奥様のみち子さん(68歳)。

ライター増山
「すてきなお店ですね。店先の屋号の文字がかわいくて、ついつい見とれてしまいました。あれは創業時からお使いなんですか?」
宏さん
「そうだね。ずっと使ってるものだよ」
ライター増山
「フォントといい壁の色と文字の色のマッチングといい、最高にかわいいです! あの早速ですが、お店の歴史についてお伺いしたいんですが」
宏さん
「まぁ、うちの両親がどっちとも肉屋だったんだよ。戦前とかは本庄から東京の芝浦まで生きた牛を運んでたりしてたって聞いたことがあるね。もちろん当時だから歩きでね」
ライター増山

「え、歩いて牛さんと東京まで! “牛歩で芝浦”って、すごすぎ」

宏さん
「何日かかったんだろうね。うちの親が若い頃はそうやって稼いでたみたい。あと牛乳からアイスクリームを作ってたって話も聞いたことあるなぁ。要は、牛を連れ回して生計を立ててたんじゃないかな。詳しいことはわからないけど」
ライター増山

「そういうところからこのお店の歴史が始まってるのですね。こうやって店舗を構えるようになったのはいつ頃なんでしょうか?」

宏さん
「戦後になってから、昭和25年の頃だったかな。当時、親は箕郷にいて、こっちまで通ってたらしいけど。まずは揚げ物屋みたいなものをやったみたい。今の店の近くでね」
みち子さん
「この人が昭和21年生まれだから、4歳くらいのときにお店を始めてるって感じですかね。それからしばらくして、揚げ物屋をやめて今の精肉店になった」
ライター増山

「なるほど! ざっくりお店の歴史を紐解くと、肉の卸し→揚げ物屋→お肉屋さん……みたいな流れなんですね。こちらのお店が精肉店でありながら、コロッケやカツなど揚げ物が特に美味しいという噂の理由がなんとなくわかったような気がします!」

しばらくして青年となったご主人の宏さんは、実家の精肉店を手伝うようになり、みち子さんと結婚するとご両親と4人で店を切り盛りするように。その後、昭和60年(1985年)12月にお爺さん(=宏さんの父上)が、その約20年後にお婆さん(=宏さんの母上)が他界。そこから10年以上、宏さんとみち子さんは夫婦二人で小林精肉店の看板を守ってきたという。

これはくせになるかも!
魅惑の甘〜いコロッケ

お店の大雑把な“生い立ち”を伺ったあとで、大人気メニューのコロッケをいただくことにしよう。コロッケが出来上がるのをボーッと待つのもなんなので、厨房に立つ宏さんとみち子さんへのインタビューを継続しながらで。
ライター増山

「コロッケづくりでこだわっているところを教えてください」

みち子さん
「私はお爺さんとお婆さんに教えてもらったんだけど、とにかく丁寧にすることかしらね。じゃがいもの皮を剥いて、型取りをして……昔はお爺さんがコロッケ係で、嫁いた当初はずっと一緒にやってたんです。なくなって33年とちょっと経つんだけど、それからはお婆さんと二人でやってました。でもね、コツっていうより、ちゃんとしたものを作ろうと思ったら、コロッケってすごく大変なのよ」
ライター増山

「当たり前のことですけど、一からご自分でつくるってことですもんね。それだけで大変そうですけど、さらなるこだわりがありそう…」

みち子さん

「そうね。夜にじゃがいもを蒸して、皮むき。それからひき肉の機械でじゃがいもを挽いて“なめっこく”するの。そこからいろいろな具材を混ぜて煮込むのよ。普通のコロッケだったら、炒めるだけかもしれないけど、うちのは時間をかけて煮込んで味をしっかりつけるの。さらに一個一個型を取って……だから手間も時間もすごくかかるのよね」

ライター増山

「大変な作業を繰り返されてるんですね。ちなみに味がしっかりついたコロッケって、すごく気になります」

みち子さん

「よく甘いコロッケって言われるわね。ソースもいらないって評判よ。普通とは違うからお口にあうかしら……」

ライター増山

「ううう、美味しそう」

みち子さん

「昔からうちのコロッケが好きなお客さんは、地元を離れた人でも近くに寄ったときに買いに来てくれるのよ。たとえば、神奈川県に引っ越した3兄弟がいるんだけど、伊香保や草津の帰りにうちに来てくれて、一人30個、3人で80〜90個ぐらい買って行ってくれるの。高崎駅から電車で帰るのにね。ホント、うれしいわ」

宏さん
「あれだけお持ち帰りすると、車内もにおうだろうな。うちのはラードで揚げてるし、揚げたては香りも立つし」
ライター増山

「もう香りがすごい……。話を聞いてることもあって、喉からというより、胃袋から手が出そうなくらい、そのコロッケを食べてみたいです」

【そんなこんなで完成】
みち子さん

「はい、出来上がりましたよ。アツいから気をつけて食べてくださいね」

ライター増山

「みち子さん、ありがとうございます! さーて、どうやって食らいついちゃいますかね……」

ノーモーションで即食い!
ライター増山

「おおおおおお、これは美味しいですよ。甘いコロッケって、どんな甘さかと思ったら、肉じゃがとかすき焼きに近い、あの甘さですね。揚げ加減も最高だし、これ衣もしっかり味が感じられますね」

みち子さん

「100%ラードで揚げてるからね。しかも専門業者が売っている業務用ラードじゃなくて、豚肉からうちで作ってるの。つまり自家製ラードね。売ってるラードと違って、全然味わいやコク、甘味が違うのよ」

市販のラードは精製度が高いため、豚の旨味や香りが弱まってしまう。しかし小林精肉店では、豚の脂を手作業で加熱し、揚げ油用のラードまで手作りしているため、よりコク深い豚の味わいを油からも感じることができるというわけだ。ここのコロッケ、“思い出補正”ではなく、リアルガチでウマい。
ライター増山

「お肉屋さんの自家製ラード100%で、しかも手間ひまかけてつくられたコロッケ。それがなんと1個85円なんて、もうヤバすぎます! どうなってるんですか!」

宏さん
「ははは、だから儲からないんだよ(笑)。それはわかってるんだけど、しっかり手間かけて美味しいものをお客さんに出したいからさ」

なにそれ。

超かっこいいんですけど。

こういう“真面目なお店”が高崎からどんどんなくなってるのはすごくさみしいこと。ただ、逆にいうと昔からずっと真っ正直にやってきた店主やその家族の、たゆまぬ努力の上にしか、こういう業態の商売が成立しないのではないか……ということにも気付かされるわけですが。だからこそ、こうやって残っている商店や個店を全力で応援しなければ!

これぞ肉屋の真骨頂
巨大カツが激しくウマい

コロッケの味に大興奮している増山をよそに、塊肉を取り出し包丁で切り分けているご主人の宏さん。まさか、その肉を絶メシ調査隊に?
宏さん
「そのつもりでしょ(笑)。うちのカツは注文を受けて、肉を切るところから始めるんですよ。だから、間違いなく美味しい。なかでもヒレカツが人気だから、是非食べてってください」

それでは切りたてのお肉がカツになるまでの、一連をご覧ください。

叩かれて

筋切られ
卵にブチ込まれ
パン粉に埋められ
ラード油にイン
きつね色になるまでカラッと
できた!
ライター増山

カツというより、もはや草履ですよ。このサイズは想像を越えてました。さっきから驚くことばかりだ……。こんな大きいカツ、どうやって食べればいいんでしょうか。一応、私オンナですので……」

ノーモーションで即食い!(本日2回目)
ライター増山

「ひゃっはーーー、大味かと思いきや、お肉がジューシーでヒレ肉の味がしっかり伝わってきます。さすがお肉屋さんの肉といったところ。これが気軽に食べられるなんて、相当すごいことだと思うんですけど」

宏さん
「やっぱり切りたての肉は違うでしょ。スーパーで売ってる肉みたいに、切って置いておくとくと味が抜けちゃうからさ」
ライター増山

「切って置いておくと味が抜ける——その言葉、かっこいいですね。でも、これを食べると、そのニュアンスがちゃんと伝わってくるから、とりあえずこれを読んだ人はここでカツを食べてみるのがいいと思います(真顔で)」

みち子さん

「うちに来てくれる常連さんなんかは、スーパーの肉よりうちの店の肉の方が味があって美味しいって言ってくれるのよ。厚さもお好みで注文のときに切り分けるからね。やっぱりお肉は切り置きしてちゃダメよ」

揚げたてはもちろんのこと、切りたてにもこだわる小林精肉店のカツ。ちょっとそんじょそこらのスーパーや惣菜店では真似できない芸当である。そして自慢のメンチも「変な肉なんて一切入れていない」とみち子さん。こんなに信用すべき、そしてステキすぎるお店があるなんて超貴重なこと……それ、地元の方々はわかってるかなぁ。

「そういう時代だね」とポツリ
店の灯が落ちる日も近い?

最高のお肉屋さんであり、最高のコロッケ&カツ屋さんである小林精肉店。いつまでもこの町でお店を継続してほしいところだが、小林さん夫妻はすでにアラ70歳だ。今後のお店の行方、そして後継者について聞いてみた。
みち子さん

「もう、私たちもそろそろよね。ふたりとも膝が悪くてね、正座もできないんですよね。立ち仕事だから、膝に水が溜まっちゃって。そう長くはできないんじゃないかしら」

ライター増山

「そうですか……お二人がつくるコロッケやカツ、そしてお肉を食べてみたい方はたくさんいると思うんですが、そればっかりは仕方ないですよね。お子さんやお孫さんがいるとお聞きしているのですが、店を継がれたりはしないんですか?」

みち子さん

「それもないですね。今、孫も娘も手伝ってくれていて、助かってはいますが、お店は私たちの代で終わり。こんなコロッケやカツを売っても食べていけないもの。ただ、それだけよ」

宏さん
「まぁ、そういう時代だね……うん、しょうがないんだよ」
ライター増山

「時代ですか…。でも明らかに美味しいものを出してるんだから、それさえ伝わればまたお客さんは戻ってくると思うんですよ」

みち子さん

「ありがとう。でも、もうたくさんお客さんが来たとして、それに対応できるかしらね。うちの機械も古いしね。冷蔵庫もひき肉の機械も、何十年も使ってるもの。機械が先か、人間が先か……どっちが先に音を上げるかしらね(苦笑)」

なんとなく最後は寂しいトーンで終わったが、終始楽しげに小林精肉店での取材を終えたライター増山率いる絶メシ調査隊。ここのコロッケとカツは本当にくせになるので、是非一度ご賞味あれ。あとお近くに住んでる方は、騙されたと思って一度、お肉を買ってみて! おそらくいつも買っているスーパーのパック入りのお肉とは違う体験ができるはず。お店がなくなるのがいつになるかはわからないけど、その日まで常連客として通いつめてみるのも悪くないかも。

取材/増山かおり

撮影/今井裕治

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