甘〜いコロッケ、そして
注文後、一から作るカツが
ヤバいくらいウマい精肉店
甘〜いコロッケ、そして
注文後、一から作るカツが
ヤバいくらいウマい精肉店
今、日本中で大型スーパーやコンビニエンスストアに押されて町のちっちゃな商店、昔ながらの個店がどんどん姿を消しています。時代っちゃ時代だけど、このままなくなっちゃうのは寂しいですよね……。今回ご紹介する小林精肉店さんは、昭和25年創業の町のお肉屋さん。ステキなおじいちゃんとおばあちゃんが心を込めて作ってくれるコロッケやカツが絶品だそうです。全力で応援したい! そんな気持ちで、絶メシ調査隊デビューのライター増山が乗り込んできました!
(取材/絶メシ調査隊 ライター増山かおり)
餅は餅屋、とはよく言ったもの。これって鮮魚店や豆腐屋、八百屋なんかにも言えることだけど、やはり専門店の味、そしてこだわりはちょっと違う。要はプロなのだ。ただその専門性は一般の人からすれば分かりづらく、また往々にしてそういう店の方々は黙して語らずというか、アピールベタであったりする。ここ小林精肉店もまさにそんなお店。あー、もったいない!
ということで、今回絶メシ調査隊デビューとなるライター・増山かおりが、小林精肉店の魅力、店主のプロ魂を全力で探るため、お店へと向かった。
店先で目を輝かせている増山に、店主のご夫妻がお声をかけてくれた。はい、我々は不審者ではなく、取材に来たものです。ご安心ください。
こちらが小林精肉店の店主、小林宏さん(72歳)と奥様のみち子さん(68歳)。
「え、歩いて牛さんと東京まで! “牛歩で芝浦”って、すごすぎ」
「そういうところからこのお店の歴史が始まってるのですね。こうやって店舗を構えるようになったのはいつ頃なんでしょうか?」
「なるほど! ざっくりお店の歴史を紐解くと、肉の卸し→揚げ物屋→お肉屋さん……みたいな流れなんですね。こちらのお店が精肉店でありながら、コロッケやカツなど揚げ物が特に美味しいという噂の理由がなんとなくわかったような気がします!」
しばらくして青年となったご主人の宏さんは、実家の精肉店を手伝うようになり、みち子さんと結婚するとご両親と4人で店を切り盛りするように。その後、昭和60年(1985年)12月にお爺さん(=宏さんの父上)が、その約20年後にお婆さん(=宏さんの母上)が他界。そこから10年以上、宏さんとみち子さんは夫婦二人で小林精肉店の看板を守ってきたという。
「コロッケづくりでこだわっているところを教えてください」
「当たり前のことですけど、一からご自分でつくるってことですもんね。それだけで大変そうですけど、さらなるこだわりがありそう…」
「そうね。夜にじゃがいもを蒸して、皮むき。それからひき肉の機械でじゃがいもを挽いて“なめっこく”するの。そこからいろいろな具材を混ぜて煮込むのよ。普通のコロッケだったら、炒めるだけかもしれないけど、うちのは時間をかけて煮込んで味をしっかりつけるの。さらに一個一個型を取って……だから手間も時間もすごくかかるのよね」
「大変な作業を繰り返されてるんですね。ちなみに味がしっかりついたコロッケって、すごく気になります」
「よく甘いコロッケって言われるわね。ソースもいらないって評判よ。普通とは違うからお口にあうかしら……」
「ううう、美味しそう」
「昔からうちのコロッケが好きなお客さんは、地元を離れた人でも近くに寄ったときに買いに来てくれるのよ。たとえば、神奈川県に引っ越した3兄弟がいるんだけど、伊香保や草津の帰りにうちに来てくれて、一人30個、3人で80〜90個ぐらい買って行ってくれるの。高崎駅から電車で帰るのにね。ホント、うれしいわ」
「もう香りがすごい……。話を聞いてることもあって、喉からというより、胃袋から手が出そうなくらい、そのコロッケを食べてみたいです」
「はい、出来上がりましたよ。アツいから気をつけて食べてくださいね」
「みち子さん、ありがとうございます! さーて、どうやって食らいついちゃいますかね……」
「おおおおおお、これは美味しいですよ。甘いコロッケって、どんな甘さかと思ったら、肉じゃがとかすき焼きに近い、あの甘さですね。揚げ加減も最高だし、これ衣もしっかり味が感じられますね」
「100%ラードで揚げてるからね。しかも専門業者が売っている業務用ラードじゃなくて、豚肉からうちで作ってるの。つまり自家製ラードね。売ってるラードと違って、全然味わいやコク、甘味が違うのよ」
「お肉屋さんの自家製ラード100%で、しかも手間ひまかけてつくられたコロッケ。それがなんと1個85円なんて、もうヤバすぎます! どうなってるんですか!」
なにそれ。
超かっこいいんですけど。
それでは切りたてのお肉がカツになるまでの、一連をご覧ください。
叩かれて
「カツというより、もはや草履ですよ。このサイズは想像を越えてました。さっきから驚くことばかりだ……。こんな大きいカツ、どうやって食べればいいんでしょうか。一応、私オンナですので……」
「ひゃっはーーー、大味かと思いきや、お肉がジューシーでヒレ肉の味がしっかり伝わってきます。さすがお肉屋さんの肉といったところ。これが気軽に食べられるなんて、相当すごいことだと思うんですけど」
「切って置いておくと味が抜ける——その言葉、かっこいいですね。でも、これを食べると、そのニュアンスがちゃんと伝わってくるから、とりあえずこれを読んだ人はここでカツを食べてみるのがいいと思います(真顔で)」
「うちに来てくれる常連さんなんかは、スーパーの肉よりうちの店の肉の方が味があって美味しいって言ってくれるのよ。厚さもお好みで注文のときに切り分けるからね。やっぱりお肉は切り置きしてちゃダメよ」
「もう、私たちもそろそろよね。ふたりとも膝が悪くてね、正座もできないんですよね。立ち仕事だから、膝に水が溜まっちゃって。そう長くはできないんじゃないかしら」
「そうですか……お二人がつくるコロッケやカツ、そしてお肉を食べてみたい方はたくさんいると思うんですが、そればっかりは仕方ないですよね。お子さんやお孫さんがいるとお聞きしているのですが、店を継がれたりはしないんですか?」
「それもないですね。今、孫も娘も手伝ってくれていて、助かってはいますが、お店は私たちの代で終わり。こんなコロッケやカツを売っても食べていけないもの。ただ、それだけよ」
「時代ですか…。でも明らかに美味しいものを出してるんだから、それさえ伝わればまたお客さんは戻ってくると思うんですよ」
「ありがとう。でも、もうたくさんお客さんが来たとして、それに対応できるかしらね。うちの機械も古いしね。冷蔵庫もひき肉の機械も、何十年も使ってるもの。機械が先か、人間が先か……どっちが先に音を上げるかしらね(苦笑)」
取材/増山かおり
撮影/今井裕治
No.54
小林精肉店【閉店】(こばやしせいにくてん)
027-322-3922
平日は11時〜13時/16〜18時半 (冬期。夏期は19時まで)
日曜・祝日
群馬県高崎市相生町41
北高崎駅から800メートル
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