クセ強めのレストランSR-50

No.53

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クセ強めのレストランで

絶品の風船ハンバーグと

バブルの残り香を味わう

80年代初頭、田園風景が広がる高崎郊外に突如として現れたシャレオツなレストラン。80年代の半ばには、バブル景気に全力で浮かれまくる高崎ヤングメンからデートスポットとして愛されていたという。オープンから35年超。あの時代の残り香を求めて、絶メシ調査隊が出動した。

(取材/絶メシ調査隊 ライター吉田大)

攻め攻めの外観に
ただただ圧倒されるの巻

ライター吉田

「バブル景気の恩恵は全く受けていないですが、映画やら漫画を通じて、そのキラキラ&フワフワ感は知っている(つもりになっている)ライター吉田です。バブルといえば、ギロッポンをビーエムでワンレンと流した後にイタメシからのマハラジャ的なアレですよね(雑)。そんなギロッポンからも遠く離れたここ高崎にもバブルの波は届いてようで、当時の高崎で『最もナウいデート&ナイトスポット』として愛されていたのが、今回紹介する洋食レストラン『SR-50』なのです」

ということで、今回ライター吉田率いる絶メシ調査隊が意気揚々と現場に到着。「SR-50」という若干トリッキーなネーミングからして、外観からキテるだろうとは思っていたが……

ロードサイドで一際目立つ

モダンな建物がドーン!

続いてお店の横に回ると…

思い切り傾いた巨大看板がバーン

そして店の上部分には、

これまたクセ強めの看板

ライター吉田

「バブルというより、アメリカンというか、宇宙的というか。とにかく店主のこだわりが強そうなお店であることは間違いないようです。では、不安でいっぱいですが、早速入店してみましょう」

ナゾの破天荒デザイナーが
店の方向性を決定してしまう

おそるおそる店に足を踏み入れたライター吉田と絶メシ調査隊一行を迎え入れてくれたのは、店主の吉田尚司(ひさし)さんと由美子さん夫妻。落ち着いた雰囲気のナイスミドルって感じでホッ。

お二人によれば、そもそも「SR-50」がオープンしたのはバブル前夜の1983年。オーナーシェフの尚司さんは神奈川県川崎市のご出身で、高校卒業後は川崎市内の老舗洋食屋さんで修行されていたそうなんですが…。

YOUはどうして高崎に?

尚司さん
父の実家が群馬なんですよ。この父がとんでもない働き者でして、川崎時代は、平日はサラリーマン、土日は保険の外交員、さらに自宅で蕎麦屋をやっていました。誰かに任せてしまうのではなく、朝は麺打ちをした後で会社に行って、昼休みに戻ってきて店を手伝うという毎日だったんです。で、ある時に……やっぱり都会に疲れたんでしょうね。貯金も出来たし、実家である群馬に引っ越して蕎麦屋をやろうと考えたらしいんです。それで洋食屋で働いていた私にも『手伝え』という話が。23歳のときでした」

ところが父上はある時、気づいてしまう。

「高崎の郊外で蕎麦屋をやっても経営が成り立たないのでは」

店舗付近の人口密度がメチャ高&出前注文がひっきりなしだった川崎時代と異なり、新店舗の建設予定地は畑のド真ん中。家と家の距離も離れており、出前商売には全く向いていなかったのだ。

そんな時、吉田家の前にある人物が現れる。

その人物とは、

バブル前夜の東京でブイブイいわせていた(らしい)

売れっ子空間プロデューサーのK氏

(偏見かもしれないが、すでに肩書があやしい)

尚司さん
「蕎麦屋じゃなくて、別の業態でやった方がいいなあと家族会議をしていた頃、この土地を紹介してくれた不動産屋さんがKさんを紹介してくれたんですよ。Kさんは、なんか変わった感じの人でした。いつも服装はメチャメチャに破れたジーンズに真っ赤なシャツ。渋い国産のクラシックカーに乗って、週に一回は東京から群馬まで来ていました。ある時、Kさんも交えて喫茶店かどこかで新店舗の打ち合わせをしてたら、いきなり紙ナプキンを広げて、サラサラと絵を書き始めて『こんなレストランどう?』って言われたんです。その絵が格好良くて、なんとなく『これでいくぞ!』みたいな感じになったんですよ。それが今の店の始まりです」
ライター吉田

「ナプキンに描かれた一枚絵で決めちゃうところが、すごいですね。そもそも、不動産屋さんのご紹介とはいえ、東京でブイブイ言わせていたボロボロGパン&赤シャツという空間プロデューサーが言うことを、なぜそこまで信用できたんですか(←どストレートに失礼なことを聞く吉田)」

尚司さん
「アハハ、Kさんは変人だったけど、『月刊 商店建築』(※権威ある店舗デザインの専門誌)に載るような一流の建築家でもあったんですよ。すごくこだわりのある人で、施工業者がちょっとでも指示と違うことをしようものなら、どんなに手間がかかろうと全部やり直させる。一切妥協することなく仕事をしていましたね。にも関わらず私達からはお金を取らなかった。そこはいまだに謎なんですよね。高崎に来ると必ず温泉に寄ってたみたいだから、目的はソッチだったのかも(笑)
ライター吉田

「外観からして相当インパクトがありましたが、Kさんのフッと湧いたアイデアが形になり、こうして35年以上も店が続いているわけだから、すごい話ですよね。ちなみに外に掲げられていた看板も、その方の仕業ですか?」

尚司さん
「はい。ちなみにデザイン画の時点では、店名は『RN-50』だったんですよね。当時は『スターウォーズ』が大ブームだったので、おそらく『C3PO』『R2-D2』みたいな形式番号を意識したんじゃないかな。で、僕が『高崎はパスタの街だけど、ウチは多彩なメニューで勝負するぞ』という意気込みを込めて、『スーパーなレストラン』ってことでその頭文字の『SR』にしたんです」
ライター吉田

「SRはスーパーレストランの略でしたか! 宇宙船っぽい店の雰囲気も納得です。ちなみにSR50の50はどこから来た数字なのでしょうか?」

尚司さん
「さぁ。真相を知っているのはKさんだけですね。聴いても『そこは謎のままで』と教えてくれませんでした(笑)」
ライター吉田

「店主本人が店名の意味を全把握していないって! ちなみに今もKさんとの交流は続いているんでしょうか?」

尚司さん
「それが…行方不明なんだよ(ボソッ)」
ライター吉田

「えっ…」

尚司さん
「日本で大暴れしたあとに韓国に渡って、不動産投資で一発当てたという噂も聞いたけど、今ではどこでなにをしているのか全然わからない(笑)」

デザイナーK氏
メニュー作りに介入するも…

K氏は建築家でありながら、自らが手がけた飲食店のメニュー作りにも参加する人物として(業界では)知られていたと尚司さん。もちろんSR-50のメニューの開発や命名にも介入してきたそうだが、ここでもエキセントリックな感性が炸裂。吉田家を翻弄する。
尚司さん
Kさんが命名したメニューは映画タイトルにちなんでいました。明太子のパスタなら同名のコメディ映画にちなんで『ピンクパンサー』、洋風カツ丼は『ポセイドン・アドベンチャー』から『ポセイドン(丼)』、どの作品から取ったのかわかんないんだけど、ほうれん草のドリアは『ミトコンドリア』だった。しかもメニューは全て英語表記で、どんな料理の説明も一切なし。だからメニューを見てもなんの料理かわかったもんじゃない。当たり前だけど、当時の高崎じゃまったく受け入れられなかったね(遠い目で)」
ライター吉田

「高崎じゃなくても受け入れてもらえなかったと思います」

尚司さん
「あれは完全にやりすぎだったね(笑)。すぐに分かりやすい名前に変えましたよ。ただKさんの名誉のために言っとくと、全部のメニューで失敗したわけではありません。今日食べてもらおうと思っている『風船ハンバーグ』も『店の看板メニューにするなら、食べる前にアクションがあるものを』 というKさんのアドバイスがあったからこそ生まれたんですよ」
そんな稀代のアイデアマンK氏が命名した「風船ハンバーグ」(900円)がこちら。
では、イッてきます!
ライター吉田

「意外にも、といっては失礼ですが上品な味です。ハンバーグから流れ出た濃厚な肉汁がトマト&コンソメソースと絡んで非常に厚みのある味わいを生み出しているんですね。このソースを迎撃するのが、ハンバーグの上に大量に盛られたチーズ。トマトの酸味、肉汁とコンソメの旨味、濃厚チーズの波状攻撃。これはもう間違いないバランスです。さっき、隣のテーブルで地元の女性がパーティーを開いてたんですが、全員このトマトソースのハンバーグを召し上がっていました。マジで定番。まさに看板」

と、例によって海原雄山気取りでブツブツつぶやきながらメニューを眺めていると、ハンバーグの横にDang Dang 気になるメニュー発見(※吉田は『美味しんぼ』信者です)。

「熟成肉ステーキ」かつ「限定」にもかかわらず1280円という価格。

さらに「200円で100 g増量」できるというジャンプアップ制度も気になる。

 

しかもスープ、サラダ、パンが食べ放題でドリンクバー、ライス付きのお値段とのこと。500gにしたい場合、1880円という計算になるが、某いきなり系ステーキ店のランチが450g/1,850円であることを考えると、これは相当お得である。ってことで、今回は特別に1ポンド(約450 g) をオーダー(※普段は100グラム単位でのオーダーのみ)。

いきなり、ではなく

やまなり!ステーキ

インサート撮影のため、数十秒のウェイティングに苛立つ吉田。

早く食べたいがあまり、目が血走ってきたので……

そろそろパクついてちょーだい!

そして食って、5秒後。
ライター吉田

「口の中をアミノ酸が駆け巡りますね。ご主人が丹精込めて熟成させたお肉は、タンパク質が分解されることで柔らかくなり、同時に酵素によって旨味成分がマシマシになっております。今回はサシが少なくいためヘルシーで、なおかつ肉質が柔らかい『サガリ』と呼ばれる部位を使っていますが、タイミングによっては肩ロースも使ったりもするらしいんで、肉の部位や柔らかさを聞いてから注文してみてください」

と、言うわけで看板メニューであるハンバーグとご主人が「採算度外視の客寄せメニュー」と語る熟成肉ステーキを完食した吉田であったが、実はこの店には、もう一つ人気メニューがあるという。由美子夫人が手がける自家製パンだ。これが美味いだけでなく、コスパ感もMAXなのである。

ライター吉田

「ここだけの話、なんとこの店で料理を頼めば、食パン、惣菜パンから菓子パンまで、すべてのパンが食べ放題になるそうです。料理とともにプレーンなパンをいただき、更にお惣菜パンで満腹になったら、デザートとしてスイーツパンを食べる。もう低炭水化物ダイエットって何よ? 状態です。汗が止まりません」

できることなら365日働きたい
その元気の源はお客さんの存在

そんなこんなで時は流れ、デザイナーK氏によるインパクト重視のアイデアが詰まったSR-50も、いつの間にやら老舗の仲間入り。バブル崩壊やらリーマンショックやらで、イマイチな状態に陥ったこともあるらしいが、そのたびに両親譲りのハードワークで乗り切ってきたそう。聞けば現在も完全オフは大晦日と元旦のみ。

一体何でそんなに働いちゃうの?

尚司さん

「休みの日って、ものすごく長く感じられるんですよ。キツいといえばキツいんだけど、休むと逆に体の調子が悪くなる(笑)。本音を言えば、年末年始も開けたいくらい」

由美子さん

「常連さんと会うのも楽しいからね。もちろん距離を保ちつつ通い続けてくれているお客さんも多いですが、頻繁に会ってるうちに家族みたいになっているお客さんも結構いるんです。『結婚の保証人になってくれ』って言われた時は驚いたけど、本当に嬉しかったですね。単なる飲食店としてではなく、私たちという人間を受け入れてくださっている感じがしました」

ライター吉田

「家族みたいなお客さんも結構いるなんて、めちゃくちゃ素敵な話ですね」

ちなみにこちら、家族のようなお客さまが自主制作したCD。

店頭で販売しているという。

ライター吉田

「跡継ぎはいないそうですが、そうした常連さんから、店を継続してほしいという声も届くんじゃないですか」

尚司さん

「まぁそうですね。冗談半分ではありますが『店をやりたい』って言ってくれる方もいるんですよ」​

ライター吉田

「へー、それもいい話ですね。ちなみに跡継ぎに求める条件はあったりしますか? 例えばレシピを継いで欲しい、とか」

尚司さん

「味を守ってほしいという気持ちはあるし、『教えてくれ』って言われりゃ教えますよ。でもね、私達と同じことをやらなくたっていい。それよりも自分の味を見つけるってことが大事なんだと思う。あとはとにかく楽しんでやれる人。楽しくなきゃ、こんな商売は続けられませんから。私達だって、なんだかんだ『楽しいな』って思う瞬間があるから、この店を続けることが出来てるんです」

由美子さん

「とにかく楽しんで続けていきたいよね。両親は70過ぎまで働いていたので、私たちもそれぐらいの歳までは頑張りたい。まずは開業50周年を目指してあと15年はやりますよ(断言)」​

バブル全盛期は、高崎の石田純一や前橋のW浅野たちが夜な夜なハイソカーで集い、大いに盛り上がりまくっていたというSR-50。あれから35年超。イケイケでピカピカだった時代と比べれば、たしかに「華やかさ」は失われてしまったかもしれない。しかしインパクト勝負のバブリーレストランは、夫妻のたゆまぬ努力により、味わいたっぷりの老舗洋食レストランへと成長。そんなSR-50に、是非とも足を運んで、その旨味を堪能してみてほしい。そしてKさん! この記事を読んだら、吉田夫妻にご一報ください!

 

取材・文/吉田大

撮影/今井裕治

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