お好み、もんじゃ、そしてパフェ
お好み、もんじゃ、そしてパフェ
鉄板焼き屋なのに、激ウマのパフェを出す店があるらしい。そんな妙な噂を耳にしたのは、厳しい暑さにうなされていた今年夏のこと。猛暑だからって、そんなわけのわからないジョークは……と右から左に聞き流していたらどうやらマジでそんな店があるという。高崎すげぇ! ということで、ソースの香りと、パフェの甘い誘惑にノックダウン寸前になりながらも、本日も調査に精を出すのである!
温かみあふれる頑丈な作りの
六角形のロッジ風鉄板焼き屋
「ダイエット中なのに小麦にハマりまくって顔がパンパンの船橋です。今回訪れるのはお好み焼きのお店だそうで。知ってました? お好み焼きって小麦なんですよ? なんていうかもう、ワクワクが止まらないんですわ!」
小麦にドハマリ中のライター船橋が、目をぎらつかせながら向かったのは、県道27号線沿いに佇む「鉄板ハウス つくしんぼ」。看板にはお好み焼きのヘラがぶっささっているし、庭先は緑いっぱいだし、その佇まいからしてもう絶メシ的なイケてる臭がぷんぷん。平成最後の年に、昭和生まれのライター船橋が興奮をおさえられないのも頷けるのである。
店の中に一歩足を踏み入れてみると、そこは別世界。
六角形の店内は、温かな木のぬくもりを感じられるし、何よりも鉄板焼きをうたっているのに床の“ぬるぬる”もナシ。ウケを狙いすぎるがあまり、普段からスベりがちなライター船橋もスベリ知らずになりそうなほど。
そしてこちらが店主の城田光行さん、喜代枝さんご夫妻。
なんか素敵。
大好きな小麦メシが食えるとあって、妙なテンションのライター船橋が、早速質問を投げかける。
「めちゃくちゃ素敵な佇まい! まるで山の中のロッジみたいなんですけど!!! どうしてこんなオシャレな店に!?」
「うれしいわ、ありがとうございます。大好きな軽井沢のロッジをイメージしたんですよ。軽井沢って、高崎からだと気軽に行けるし、私たちの青春時代は高級避暑地だったのよ。若いころなんかは、ベビーカー押しながらも行ったりして。そうそうある時、あの星野仙一さんと軽井沢で会ってね。なんか目が合っちゃって、『私を見てる!』ってドキドキしたものですよ」
「お、奥様…。まぁ、このロッジ感が軽井沢由来ってのはすっごく納得です!」
「本当は暖炉も置きたかったけど、消防法でNGくらっちゃったんです。なにせ火を使う鉄板焼き屋なもので(笑)。でも木造に見えて、実は鉄骨だから頑丈なんですよ。地震がきてもぜんぜん揺れないんです。東日本大震災のときも、コーヒーカップ1つも落ちてなかったですし」
「そもそもですが、どうしておふたりで鉄板焼き屋をやろうと?」
「このお店自体は1983年にオープンしたんですけど、その前に6年くらい喫茶店をやっていたんです。ナポリタンやピザトーストなんかを出していたんですけど、当時の高崎には、今みたいにチェーン店もイタリアンもほとんどなかったので、けっこう繁盛しましてね(にっこり)。そんな中、常連さんが巣立って客層もファミリーになってきたし、自分たちの子供も大きくなった。だからファミリーでも楽しめるお店ってことで、鉄板焼き屋にすることにしたんです」
「なるほど! 元々、喫茶店をやってたって雰囲気が店にも表れてる感じがします」
「わたしたちは、前橋の調理師専門学校で出会った同級生なんです。いずれ自分たちのお店を持ちたくて始めたのが喫茶店ですね。当時はとにかく喫茶店が流行っていたので、やってみたって感じです」
「そうそう。飲食って修行していないと通用しない世界なんですけど、鉄板焼き、とくにお好み焼きって、材料があればお客さんが焼いてくれるスタイル。上野や浅草の名店に味を確かめに行きましたが、私たち2人で新たに始めるには好都合だったんです。元々喫茶店だったので、気軽にコーヒーを飲めるカウンターは、あえてつくりました。しかも全席を見渡せる角度にしたんです。そうするとカウンターの中から私が、火加減や焼き加減を常に見張れるので」
2人の話からもおわかりの通り、お店の司令塔が喜代枝さん、それに優しく寄り添うのが光行さんという役割。40年近く一緒に走ってきた秘訣は、こんなスタイルにあるのかもしれない。
お酒を飲む人が苦手?
鉄板焼き×パフェの謎が解明
「長くお店をやられているのに、どこを見てもキレイだし、鉄板もぴかぴか。お庭も素敵だし、至る所にお客さんへの配慮が感じられますね。過去に、行き詰まったというか、経営危機みたいなものってなかったんですか?」
「本当のことを言って、一度もないんですよ」
「なんと! じゃあ、ご夫婦としての仲は?」
「それはダメです(キッパリ)。もう亀裂だらけ。学生時代からの友達なんですけど、こちらの方は、旧家の長男だからなのかのんびりしている。私はというと、末っ子で2人のお姉ちゃんにかわいがってもらうために、要領よくやってきたタイプ。だから意見が食い違うこともしょっちゅうでした。仕事のこともそうですけど、この人、夜遊びに行くことも多くて…」
「え…!? 光行さん控えめというか、夜遊びするタイプに見えないんですけど!」
「ふふふ。若いころは元気がよくってね(テヘペロ)。主に麻雀ですね。だから寝ずにお店に出たりして」
「驚愕です(笑)。あと気になることがもう1つ。お店の看板に“パフェ”とでかでかと掲げていて。これは一体どういうことでしょう?」
「実のところ、私たちお酒がぜんぜん飲めないんですよ。お酒を飲む人、好きか嫌いかって言われたら嫌いな方なんです。だって2~3時間もそこに費やしているのもったいないじゃない? 飲むと人格が変わる人もいるし、そういうの見たくないじゃない?」
「ほほう。だから食事メニューを充実させるために、パフェをってことなんですね! すっきりした~」
鉄板焼き×パフェの謎が解けたら、お腹が減るのが人間のサガというもの。そうソワソワしていると、夫婦2人はキッチンの方へ! その息はぴったり。これは期待大である。
カマンベールにハンバーグまで
変わり種メニューの数々が最高
さて、実食である。定番モノから変わりダネまで、多種多様な粉モノメニューがあるみたい。まず最初にオーダーしたのは、カマンベールチーズをまるごと一個使用するもんじゃ焼き。しかもイカスミ入り。
早速、一緒にもんじゃ焼きをクッキング!
鉄板で具材をやき~の。
土手をつくり~の。
出汁をながしこみ~の。
カマンベールのせ~の。
とかし~の。
いただきまーす!
「だしが効いていて激的にうまっ! そしてチーズのコクが追いかけてくる~(歓喜)」
「おいしいでしょ? イカスミをブイヨンでのばしているからね!」
そんななか、カウンター内のキッチンスタジオでは、光行さんがせっせと何かを作っている。
そして登場したのがオムレツ風焼きそばだ!
テーブルに届けられると同時に、がっつくライター船橋。
「は~んっ。おいしいよぉ。焼きそばの麺もぷりぷりだし、それを包むクレープ状の生地もファーファ(ふわふわ)。最高&最高!」
笑顔が止まらないライター船橋のもとに、さらにもう1品運ばれてくる。
ハンバーグのお好み焼きだ~!
そして再び、喜代枝さんと一緒にクッキング。
具材を焼き~の。
生地をまぜまぜし~の。
!!!
「って、この粘り気と弾力はどういうことでしょうか?」
「山芋をたっぷりと入れてありますから。そこにコーヒーフレッシュを混ぜてみてください」
めちゃくちゃなめらかに混ざる。小技が効いてる~!
ひっくりかえしの術!
そして…
焼き上がった至極の一枚がこちら。
「あのですね、ちょっと言いたいことがあるんですよ」
「なんです?」
「うんめーーーーーー!!!」
「まずハンバーグがジューシーでうますぎる! そしてソースがスパイシーな感じがして、たまんねぇっす!」
「そうでしょう! ハンバーグも手作りなんです。これが入ることで、野菜のビタミンも、肉のたんぱく質も摂取できるんです。いわば完全栄養食のお好み焼きになるわけです。ちなみにソースは、おたふくソースにウスターソース、ケチャップ、カレー粉をブレンドして作ってます」
「いやぁ、今日は小麦をいっぱい摂取できて満足満足♪ ごちそうさ…」
いや、まだ終わらない。終わらせない。
むしろここからが本番だ。
この店のもうひとつの看板、スイーツメニューが襲来するのだ。
以下、ガチで出てきたスイーツ軍団を順に紹介しよう。
一番「ブルーベリーパフェ」
二番「コーヒーゼリー」
三番「カラメルプディング」
四番「バナナジュース」
もう笑うしかない…!
「うぷっす…。腹15分目ですけど、フルーツがとにかく新鮮でただただおいしい。それははっきりとわかりました!」
「すべてフレッシュなフルーツを使ってますからね。パフェやジュースは、東京の老舗パーラーや果物屋さんを参考にしたんです。だからうちのフルーツメニューは、都内の一流店並みのクオリティで、お値段は半額。全部フレッシュでおいしいんですよ」
「マジッすか!!!! 生のフルーツを使うのって、相当お金かかりますよね?」
「はい、でももういいんですよ。もう年だから利益はいらないんです。これまでやってこられたという感謝の気持ちを込めて、お客さんに還元していきたいので」
「なんということでしょう(涙)。そりゃ40年近くも愛されるわけだ…。最後にお店の今後について聞きたいです」
「2020年の東京オリンピックまでは続けられたらと思ってます。娘と息子がいますが、継がせる気なんてありません。ボーナスもないし、働く時間だって長い。お店を続ける大変さを知っているし、これは自分たちで始めたこと。だから子供たちに押し付けたりなんかしたくないんです」
「そうですか…。ずっと続いてほしいって個人的な思いが芽生えてしまったんで、あえて聞かせてください。例えば、お店を継ぎたいっていう熱意ある若者が現れたらどうですか?」
「オッケーです(即答)。家賃さえ支払ってもらえれば大丈夫です(にっこり)」
お店で働くことを生きがいに、1年でも長く続けていけることを目標にしているという光行さんと喜代枝さん。「2、3カ月に1回、数万円を使ってくれるお客さんより、週に1回コーヒー1杯でも飲みに来てくれるお客さんがいることがうれしい」と話す姿は、絶メシ調査隊の全員の胸を熱くした。
今のところ、後継者の目途は立ってないけれど、志高き若者が現れれば引き継ぐこともあり得るかも!?