“高崎カレー”の火が消える?印度屋【事業承継成立】

No.33

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“高崎カレー”の火が消える? あの老舗が本気で後継者を募集

信越本線北高崎駅にほど近い交差点。地図ではこの辺のはずと見渡し、ある建物に目が止まる。外観は煉瓦色、もといカレー色(これがそそるんだ、また!)。間違いない、あれが『印度屋』だ。すると、調査隊の車を見つけ、気のよさそうなご主人が店の中からわざわざ出てきてくれた。挨拶を交わして頭を下げた瞬間、「グゥ」。……やだ。お腹が鳴ってしまった。だって、この香り! 頭の中を一瞬でカレー色に支配するグレートスメル。1秒でも早くかっこみたいが、いきなりクライマックスが来ては面白くない。まずは『印度屋』という店そのものを知ろう。きっと最高のスパイスになるはず。

(取材/絶メシ調査隊 ライター名/井上こん)

カレーが苦手な人も来ちゃうカレー屋

写真ライター井上

「どうも。普段はうどんを主食に生きている者です。実は私、僭越ではありますが、ある媒体でカレーの連載を持っていた時期がありまして、北は北海道から南は沖縄まで、全国の個性的なカレーを取材していたのですが、高崎には正直そこまでカレーのイメージがなかったり(ごめんなさい!)」

そんなライター井上率いる絶メシ調査隊を待っていたのが、店主の荒木さん。

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「いらっしゃい!」と迎えてくれた店主の荒木隆平さん。どこか故・蟹江敬三さん的な渋い雰囲気

1983年、当時34歳のご主人が創業した『印度屋』。カレー専門店としては、高崎では先駆け的な存在だ。それまで複数の洋食店を渡り歩いてきた荒木さんが独立の際、カレー屋を選んだのは、元来カレー好きであること、そしてカレー専門店が(高崎では)まだ珍しかったこと。さらに1種類仕込めばいろんな味で提供できると考えたから。

荒木さんの思惑は見事に的中。バブル時代という追い風もあって、開店からすぐに地元で話題の店に成長したそうだ。

写真ライター井上

「思えば、ひと昔前は、カレーは家で食べるものって感じでしたよね。それが専門店なんて、地域のみなさんにしてみればすごく新鮮だったでしょうね」

写真荒木さん

「あのころはすごかったですねえ。お客さんが1日150~200人も来て、従業員も3人くらいいて。本当に忙しくさせてもらいました。」

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「ビルの借金もあったから毎日必死に働きましたよ」と、家族のためにがむしゃらに走り抜けた日々を振り返る

印度屋は店名からしても間違いなくカレー屋だが、カレー以外のメニューも意外とある。

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右端のメニューには「かきのアヒージョ」(950円)に「エビのクリームチーズスパゲティ」(1200円)といったカレー屋ではなかなか見ない文字列が並ぶ

スパゲッティに、ピザ、ローストビーフ……さらにはきゅうりの糸昆布和えまで用意されている。そこいらのカレー屋では考えられない守備範囲の広さ。その秘密を荒木さんに伺うと、若かりしころの食体験inヨーロッパに行き着きびっくり。

写真荒木さん

「専門学校を卒業後、2年間ほどドイツ・デュッセルドルフの日本人向けの洋食屋で働いていたんです。その時に、オランダやパリなんかに足を伸ばして、いろいろ食べましたね。帰国後は東京でイタリアンをメインに7年くらい洋食全般を経験して、27歳で高崎に戻り、6年くらい洋食屋をやっていました。だからこういうメニューもあるというか。あ、そうそう、現在うちで出しているアヒージョやクリームスパゲッティなんかは、カレーが苦手な方から人気なんですよ」

“カレーが苦手なのになぜカレー屋に来る?”というツッコミは野暮。これはつまり「ここに来ればなにかある」ということであり、ご主人の腕に対する信頼の証なのだ。

なお、洋食系メニューについては欧州での豊かな食体験の賜物、ということで理解できたが、居酒屋チックなメニューがある理由については、よくわからず(笑)。たぶん、ご主人が呑兵衛なんだろう(取材中、「森伊蔵」や「赤兎馬」の話で盛り上がりかけ、あわてて話を戻した)。

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高座かってくらい軽妙な語り口のご主人。相槌を打つこちらまで楽しくなってしまう

メニュー表から漂う
そこはかとない「ガチ感」

それにしても、メニューの情報量がすごい。

このメニュー表なんて、
20年くらい前の個人のホームページのよう。

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あまりの情報量の多さに一瞬目が泳ぐけど、まあそれも楽しい。トッピングも豊富なため、サイズ違いも入れたら50種類はありそう

そして壁には、「超大盛りテラカレー2.5kg」の挑戦者を呼びかける張り紙。

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2.5キロ(10人分)を10分で完食すると賞金3000円。なお挑戦料は1500円。胃袋に自信がある方は是非チャレンジを!(丸投げ)

さて、ここでカレーのオーダー方法について簡単に説明しよう。基本となるカレーは以下の4本立て。

■普通の小麦粉から作るカレー(家庭で食べるあのカレー)
■ミートカレー(スパイスから作る挽き肉のカレー)
■キーマ(スパイスから作る挽き肉とコーンのカレー)
■ムルギー(スパイスから作る鶏肉のカレー)

※ミートカレー、キーマ、ムルギーは小麦粉を使わないグルテンフリー

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こちらが4種のカレー。店名は『印度屋』だが、こちらのカレーはいずれも我々の舌に親しむ洋食の延長としてのジャパニーズカレーだ

またカレーの“お供”は、ライス/ドリア風/ナンの3種類から選べる。

写真ライター井上

「ああ、もう我慢できん! ご主人、人気メニューを食べさせてください!」

写真荒木さん

「じゃ、創業時から人気のチーズ系にしましょうか。『キーマ焼きチーズカレー』と『チーズハンバーグカレーの2種類を作りますね」

そう言葉を言い残し、厨房で作業スタート!

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ひとまず「焼きチーズカレー」をつくり始める荒木さん

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「焼きチーズカレー」のベースはキーマをチョイス。熱するにつれ、スパイシーな香りが立ち上る。レードルごと口に運びたい

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食べ方はドリア風で。ごはんやカレーが見えなくなるまでチーズを乗せたら、オーブンへGO! おいしくなって戻って来いよ!(すでにおいしいんだよ)

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一方の「ハンバーグカレー」のベースは、小麦粉から作るベーシックなものをチョイス。合い挽き肉のハンバーグにチーズを乗せ、200度のオーブンで焼き上げた後、さらにバーナーで炙るという手のかけよう!

写真ライター井上

「あの……失礼ながら、あれだけのメニュー数ですし、てっきりトッピングは最後に乗せるだけかと思っていましたが(本当に失礼)、ハンバーグ一つみてもここまでとは……」

写真荒木さん

「そう? やっぱり洋食で鍛えたからかな? チャツネを桃缶から手作りしていた時代もあったなあ」

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そして、2品が完成! 「なんだかんだ娘さん手伝ってるじゃ~ん」と思ったら、まさかの奥さまでした

そして運ばれてきたのがこちら。

「キーマ焼きチーズカレー」(880円)

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こちらサラダつき。で、自家製の人参ドレッシングが何気にうまいんだ!

匂いを嗅ぎたいから、上から眺めてみるよね。

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このまま顔を埋めてしまいたい(ヤケド覚悟で)

現場作業員・井上、安全を確認して行きます!
掘削!

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破壊力すごすぎじゃない? 夜中にこんな画像が送られてきたら確実によだれで枕を濡らしてしまう

出陣!

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デカ口だとこういうとき得。いただきま~す!

写真ライター井上

「んんんんん~! まろやかなカレーにチーズの風味とコーンの甘みが合う! え? トマトホールも入ってる? ふむふむ……って、タイム! 3口目あたりで急に辛くなったんですけど! なにこの容赦ない感じ! え? カイエンですか? そうですか。いえ、コーンで油断しててびっくりしましたけど……結論、うまい!」

続いてもう1種類のカレーをば。

「チーズハンバーグカレー」(895円)

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サラダつきでこのお値段。いや、もう、このチーズの引き! ダイエット中の人、ごめん!

ハンバーグとカレーという、はらぺこキッズが泣いて喜ぶ鉄板の組み合わせ。

そら、こんなお料理を前にしたら人間は…

こういう顔になりますよね。

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「うほほほほ〜い」

満面の笑みからの、一口パクり。

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もぐもぐタイム(という名のコメントひねり出しタイム)

写真ライター井上

「うわーーー、カレーに負けないこの肉々しさ、たまらん! 最近のハンバーグって、“ふわっと柔らかジューシー”みたいな風潮ありますけど、たまにこれくらいワイルドなやつが食べたくなるんですよね。最高!」

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断面フェチのみなさま、サービスカットですよ

はあ~、どちらのカレーも美味しかった。いろんな組み合わせができるから、何度も通って自分にとってのベストオーダーを見定めたいなぁ。

というわけで、心を込めて、ごちそうさまでした!

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本日も美味しかった〜

ライブハウス、はじめました

お店についての話も聞いたし、おいしいカレーも食べたし、あとは撤収するだけ。

…………って思うんじゃん? 

そうじゃないんだな。

実はお話を聞いている間も、カレーを食べてる間も、ずっと気になっていたことがある。
それが店内を埋め尽くすビートルズの写真(をコピーした紙)の数々。

ここにも。

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メンバー4人の御尊顔

こちらにも。

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インドを感じさせる布(?)の両サイドを埋め尽くすビートルズ

視界の中に、絶対に入ってくるビートルズの影。これは突っ込んでいいのか、どうなのか迷うところではあるが…。

写真ライター井上

「あのぉ、ビートルズお好きなんですか?」

写真荒木さん

「お、気づかれましたか! ビートルズもそうだし、音楽が大好きなんですよ! で、音楽好きが高じて、印度屋の上の階にあるスペースを設けましてね……。是非、見てください!」

写真ライター井上

「あ、はい…(ご主人、今日イチで生き生きしてるやないか)」

ということで印度屋を出て、外階段で上のフロアに連れてこられた一同。中に入ると、壁一面に往年の名盤(LP)がズラリ! ここは一体……?

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え~っと、ジャズでしょ。ロックでしょ。あ、日本のアイドル歌謡のレコードもある!

ここは4年前にオープンしたというライブハウス「OLDIES CLUB」。幼いころ、お小遣いを貯めて買った思い出の1枚から、青春時代に情熱をもって買い集めたプレミアものまで、荒木さんが半生をかけて集めた数えきれないほどのレコードを聴きながら、まったりとお酒を飲めるスペースだ。もちろん印度屋のカレーもオーダー可能だとか。

それにしても……
印度屋にいる時より、なんだか楽しそうな荒木さん。

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「ここ、いいでしょ」とうれしそうな荒木さんの背後には本物のドラムセットまで。ときにはアーティストを招待したり、貸し切りパーティーを開催することもあるとか

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もちろんビートルズのレコードもしっかり置かれている。なお、本当に貴重なものは鍵付きの棚に保管している

まずは印度屋でカレーを食べて、食後に良質な音楽を聞きながら、お酒を飲む。そして〆にもう一度、印度屋のカレー……そんなフルセットをいつか楽しみたいものだ。

「生涯現役」から「後継者募集」
方針転換した理由とは

全盛期に比べれば落ち込んだものの、まだまだ人気店として売上も好調。一方で好きな音楽の店もはじめ、年齢を重ねつつも、商売に対する前向きな姿勢は変わらず「いつか東京に行って、うちのカレーで勝負したい」と熱く語る荒木さん。

生涯現役——その方針を命尽きるまで貫くつもりであった。しかしである。昨年、あることがきっかけとなり、強気一辺倒だった姿勢にも若干の変化が起きたという。

写真荒木さん

「昨年、腹膜炎で死にそうになったんですよ。やっぱり健康を損ねると、気分も滅入りますよね。それまでは後継者のことなんて全然考えたこともなかったのに、急に『ああ、このまま死んだら全部なくなっちゃうんだ……』って思ってしまって。なくなってしまったら、東京で挑戦する以前の問題ですから。やはり残したいんですよ、この味を」

写真ライター井上

「後継者を募集されているのですね。これだけの人気店を継げるのって、すごくいいお話だとは思うのですが、プレッシャーもありますよね」

写真荒木さん

「そうかもしれません。ただ、料理は私が教えるから安心してください。それに、すべて私がやってきたことを再現する必要はなくて、レシピは人気のあるやつだけ覚えて、あとは好きにやってもらって構わないですね。後継者に求める条件は腕より人柄。店の雰囲気はオーナーの人柄が作るもんだと思うので、そこは大事にしたいですね」

というわけで、この記事を読んでいるそこのあなた!料理の腕は不問だなんて好条件すぎますって。人柄に自信がある方は……いや、むしろ人柄にしか自信がなくても大丈夫(だと思う)!是非、後継者候補に名乗りをあげてみません?

我々としては、ただただ純粋に印度屋の味が後世に受け継がれることを切に願うばかり。しかし、「いい後継者に出会いたいね。でも、東京への夢もまだ継続中なんです」と最後につぶやいた荒木さんのさらなる挑戦にも期待せずにはいられない。

東京でもあの味、食べたいし。

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カレーと音楽以上に大好きな奥さんと一緒に。これまでお店を続けられた秘訣を「女房の存在。一人では無理でした」と笑顔で言い切る。こういうご夫婦、憧れるなあ

取材・文/井上こん
撮影/今井裕治

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