名門校の生徒が食べ繋いできた
名門校の生徒が食べ繋いできた
群馬県きっての名門校、県立高崎高校(通称:高高 「たかたか」と読む)の目の前に凛と佇むイタリアン&喫茶「カフェ・ド・プランタン」。なんでもここでは、高高の生徒が新入生歓迎の儀式として代々食してきた激辛メニューがあるという。高偏差値校の伝統的な“食のかわいがり”とはどのようなものか。そもそも、どれだけ辛い料理なのか。絶メシ調査隊は胃薬を携えて、現場へと直行した。
高高生に代々伝わる
激辛パスタの店
「糖質制限ダイエット成功……からの絶賛リバウンド中のライター船橋です。私が痩せられないのは、この『絶メシ』のせいほかなりません(怒)。いつもおいしいものばかりなのは事実ですが、なんなんですか一体!? そして今回は、激辛メニューに挑戦ときた。大事なことなのでもう一度言います。なんなんですか、一体(激怒)!!!!」
脅威のリバウンド力でかつての姿を取り戻しつつあるライター船橋が今回訪れるのは、片岡町にある「カフェ・ド・プランタン」。パスタやピザといったカジュアルイタリアンをメインにした料理が楽しめる店である。
高偏差値校の生徒が足繁く通うという店だけに、アットホームながらもそこはかとない上品さが漂う店内。
さて、このほんわかとした店内の雰囲気。火を吹くような激辛メニューを出す店のようには感じられない。
「激辛メニューを出す店といったら、店内に入った瞬間から刺すか刺されるか殺伐とした空気が流れてるものだし、ある意味、戦場なわけですよ。それがなんですか、このアットホームな雰囲気は。これは楽勝ですわ。おほほほ〜」
入店早々、敵地を一通り見渡し、そう勝利宣言をした船橋。しかしその直後、店の片隅にこんなものを発見してしまう。
激辛メニューを思わせる唐辛子飾り。
ライター船橋が気を引き締め直したその時である。
店の奥からナイスミドル風の男性が笑顔で登場。
炎のトランペッター、“世界のヒノテル”こと日野皓正さんによく似た、店主の高橋敏夫さんである。
「こ、こんにちは…。こちらのお店、かなりの激辛メニューがあるそうで?」
「あ、はいはい。“高高スペシャル”のことですね(ニッコリ)。うちでは、辛さを5段階に分けた『辛いパスタ』というメニューがあるんですけど、高等上級者向けの一番辛い“No.5”のさらに上を行くパスタのことですよ!」
「『高等上級者』という概念もわからないのに、そのさらに上を行くとか言われましても…。もう不安しかないんですけど(涙目)」
メニューにも堂々記載!
隠してない隠れメニュー
異次元の辛さとの対峙。
果たしてライター船橋の舌、胃、腸、その他の臓器はそれに耐えられるのであろうか。というか、そもそも絶メシリスト掲載に耐えうるキレイな絵が撮れるのであろうか。世紀の決戦を前に、まずはお店の成り立ちなどから伺うとしよう。
高橋さんがお店をオープンしたのは、昭和56年。料理学校を出て魚市場で働いた後、喫茶店やイタリア料理店などでバイト生活を経てのことだった。
「俺がこの店を開いたのは33歳のころで、それまではフラフラしていましたよ。ちゃんと務めに出ちゃうと、あちこち簡単に出向けなくなっちゃうからさ」
「33歳まで自由人だったんですか? 急に親近感を持っちゃいましたよ(笑)。もしや店内にあるスキー板も自由人時代のものですか?」
「まあ、そうですね。バイトならすぐに山にいってスキーできるのでね。今はぜんぜん行ってないけど」
「あのスキー板の本数を見る限り、相当、本格的にやってらっしゃってたんでしょうねぇ。で、お店をやることになり、自由人からも卒業と」
「ええ。でも、小さいころからお店はやりたかったんです。最終的には、親の援助もありながらですが、念願かなって自分の店を持つことができた。当初はコーヒーに力を入れていたんですよ。若い頃に伊勢崎のコーヒー専門店『沙羅英慕』で働いていたこともあって、その沙羅英慕に焙煎を頼んで、美味いコーヒーで客を呼ぼうとしていました」
なお、店内には「沙羅英慕」の看板も。
「その後、沙羅英慕も閉店しちゃったし、目の前が高校だということもあって、徐々に食事に力を入れるようになったんです」
「なるほど。確かにメニューを見ると、ドリアやパスタ、ピザなどが並んでいますね。そして目に入るのは、『辛いパスタ』ってわけですよ。メニューに『隠れメニュー 高高スペシャル』って堂々書いちゃってて、もはや隠れメニュー感ゼロなわけですけど。どうしてこれを作ろうと?」
「25年くらい前かな。当時からあった『辛いパスタ』を、もっと辛くしてほしいと高高の生徒から頼まれたんです。それで高等上級者向けの一番辛い“No.5”のさらに上を行くパスタ作ったというわけ。それが校内で評判になり、やがて新入生歓迎の儀式として、先輩が新入生にこれを食べさせるというのが定着しました」
「なるほど。ちなみに、どれだけ辛いものなんでしょうか?(恐る恐る)」
「口で説明してもわからないですよね。今すぐ作れるから食べてみたらどうです?」
あら、これ意外とイケるかも?
高高スペシャル、思ったより辛くない説
東京から来たお嬢さん、高崎を甘く見ちゃいないか?
そう言わんばかりの不敵な笑みを浮かべつつ、軽い足取りで厨房へと向かう高橋さん。辛い料理を出す人特有のSっ気を、もはや隠そうともしない。
さて、調理開始。
玉ねぎやベーコンといった具材に、一味唐辛子、豆板醤、鷹の爪を合わせていく。フライパンに入ったそれらを見ているだけで、すでに辛い。口の中が痛い!
手際よくパスタのソース作りを行う高橋さん。
すでに厨房は辛いニオイが充満している。戦意喪失しかかっているライター船橋に「辛い辛い辛い唐辛子」と書かれた調味料を嬉しそうに紹介する高橋さん。
そしてぐつぐつと煮えたぎるパスタソースが完成。
地獄絵図ですやん。
このマグマ的なソースにパスタの麺を投入して絡める。
そして完成したのが「高高スペシャル」だ。
ファイヤ~!
「グルメ取材歴10年の私が断言します。これは、あかんやつです。てか私、明日から海外旅行なんですが…(泣)。だから絶対に体調を崩せないんですよぉぉぉ」
などと叫びながらも、カメラマンが撮りやすいよう配慮しつつパスタをくるくるし始めるライター船橋。仕事の鬼である。
さぁ、逝こうぜ!
ピリオドの向こう側へ!
「あら? 思ったより辛くない……かも」
「えっ」
「たしかに辛いけど、痛いほどの辛さはない! というか、なぜだかうまい! コンソメとバターのせいか、辛みの中に旨みとコクが見え隠れしていますわ!」
勝利のドヤ顔。
「そんな…。お嬢さん、都会からいらしたから辛みに強いのかな……」
本来ならば、大げさなほど辛いリアクションをとるのが正解ではある。少なくともそんな流れであった。そして高橋さんの寂しそうな顔を見れば、ワンテンポ遅れてでも悶絶すべきであった。しかし、空気を読まないライター船橋はこう畳み掛ける。
「ほどよい辛さでうまいですなぁぁぁ。体がポカポカしていい気持ちです。うふふ」
「そうですか…」
一応、高橋さん、そしてお店の名誉のために言っておくと、「高高スペシャル」は辛い。しかし、食べられないほど辛いということもなく、船橋の他にも編集デスクとカメラマンも「うまい、うまい」と食べ進められるほどであった。
とにもかくにも絶メシ調査隊の「忖度ナシのリアルガチ反応」に、あからさまにがっかりする高橋さん。しかし、気を取り直して、この日手に入ったから作ったという下仁田ネギのピザをサーブしてくれた。
辛いパスタの後のチーズたっぷりのピザ。こんなの美味いに決まってる!
口の中へ、ようこそいらっしゃいませ~!
「生地がサックサクで、まるでパイ生地みたいです! 下仁田ネギも贅沢に入ってて最高に美味いです。激辛パスタとか色物メニュー作っておきながら(←失礼)、高橋さん実力派じゃないですか~」
「いやいやいや、とんでもないです。一応、生地は2つの粉をブレンドして作っています。ソースもそうですけど、できることはなんだって手作りしちゃうんです」
「激辛にビビッてた自分に教えてあげたい。こんなにおいしい幸せが待ち構えていたことを。ところでこちらのお店、後継者についてはどうお考えでしょうか?」
「実は息子が手伝ってくれていて、このままいけば店を継ぐことになるかと。大変だから継がなくていいって言ったんですけどねぇ。料理人としてはまだまだですけど、一生懸命やってくれればそれでいいです」
高橋さんもまだまだ現役。さらに、息子さんが後継者となれば、「カフェ・ド・プランタン」は当分安泰であろう。高高生に、そして地元民に愛されてきたこの店は、これからも憩いの場を提供し続けてくれるに違いない。
おまけ
最後にひとつだけ懸念される点について。
今回、ライター船橋以下、絶メシ調査隊スタッフが全員、忖度ナシのリアルガチ反応をしてしまったことで、高橋さんのハートに火がつき「高高スペシャル」がさらに辛くバージョンアップされる可能性はある。
もしそうなったとしても、
高高生のみなさん、
ライター船橋のことは嫌いになっても、
絶メシ調査隊のことは嫌いにならないでください。