発祥は戦前!超老舗洋食店が
フルリニューアルしても
伝統の味をしっかり継承していた
発祥は戦前!超老舗洋食店が
フルリニューアルしても
伝統の味をしっかり継承していた
「こんにちは。絶メシ調査隊の吉田でございます。私、洋食には目がない! というほどでもないんですが、割と好きです。っていうか嫌いな人っているんですかね? 日本で独自に発展した西洋料理、いわゆる『洋食』は我々にとって日常の一部。家族の食卓で、あるいは街の大衆食堂で、ハンバーグやコロッケといった“THE洋食”が日常的に食べられているわけです。もはや洋食は日本料理と言っても過言ではありません」
と、のっけから洋食は日本料理だと言い張るライター吉田が向かったのは、高崎市の超老舗洋食店「香味亭」。昔ながらの渋〜い洋食が楽しめると期待して、店の前にやってきた。
……しかしである。
結構、現代的な外観じゃん。
こ、これは思ってたのとぜんぜんチガウ!
事前に集めた情報を整理しよう。そもそも香味亭の前身は、保坂なかさんという方が昭和2年に始めた「カフェピナン」という店。大正から昭和初期にかけて流行した女給さんのいる「カフェー」だったが、美味しい料理が評判だったとのこと。しかし軍靴の足音が聞こえ始めてきた昭和16年に休業を余儀なくされ、以後20数年間にわたって眠っていた「ピナン」を、昭和42年にレストランとして復活させたのが、なかさんの孫で香味亭のオーナーシェフの保坂琼五(けいご)さん。それから50年以上、この高崎の地で質の高い洋食を提供し続けてきた。もちろん家族経営で――。
うーん、我々はそう聞いていたのだが、目の前に広がる光景は、そんな“絶っぽさ”(褒め言葉ですよ)とは無縁のキレイキレイな空間である。
「街の洋食店でこうやってきれいに世代交代できている例って、高崎に限らず貴重ですよね。お店の魅力について深掘りさせていただきたいんですが、お父様の琼五さんは日本橋の洋食店『たいめいけん』で働いていたそうですね」
「洋食のシェフとしては超ガチンコ系ですね」
「ただの復活ではなく、カフェーから洋食店に業態をチェンジさせたんですね」
「修二さんはいつからこのお店で働いているんですか?」
「そういうことだったんですね。父上と16年間一緒に仕事をされてきたということは、味の方は継承されている?」
「そこはご安心を。もちろんメニューには僕なりの味や工夫も加えていますけどね(笑)。まあとにかく食べてみてくださいよ(ニッコリ)」
「プレートという新たな形式にしたのは私ですが、料理の根本であるソースなどは父の時代から変わっていません。この一皿で洋食の基本となるデミグラスソース、ホワイトソース、タルタルソース、トマトソースを一通り楽しんでいただけます」
「ルーから作っている自家製ホワイトソースにはこだわっています。牛乳と小麦粉、仕上げに生クリームを少しだけ加えた、これ以上ないというくらいスタンダードなものです」
「むう…フライの揚げ方にもこだわりがありそうですね」
「水分が出切ってしまうと美味しくなくなってしまうので、完成形の9割ぐらい火が通ったところで油から上げています。エビフライにかけるタルタルソースは、自家製マヨネーズに、ゆで卵、ピクルス、パセリ、玉ねぎを加えたノーマルなもの。カニクリームコロッケにはトマトソースですね。セロリ、玉ねぎ、人参、ベーコンなどをトマトと一緒に煮込んで、ミキサーにかけたものです。作り方としてはフランス料理に近いです」
「ハンバーグはしっかりとした食感が特徴ですね。デミグラスソースは、上州牛のブリスケットという部位からフォン(=だし)を取り、小麦粉を併せてルーにしたものです」
というわけでお料理が完成。まずは一番人気を誇る「香味亭の洋食プレート」からいただこう。見た目こそ普通だが、普通じゃない手間とこだわりが詰まったメニューであることは、調理風景を見ている我々としては疑う要素などあろうはずがない。
ということで、
入刀の儀。
トップバッターのハンバーグは、しっかりと肉の食感が楽しめ、噛むほどに旨みたっぷりの肉汁が溢れてくる。が、決して過剰ではない。
「デミグラスソースが絶妙ですね。ハンバーグの旨味を引き立てつつ『ボクもよろしくっす』的な感じ。ゴリゴリ自己主張してくるタイプではなく、すごく上品で調和の取れた味わいのハンバーグですね」
「まぁ、うまいこと(笑)。自家製のなめらかなホワイトソースと同じく自家製のトマトソースと共に、ぎっしり詰まったカニの旨みを引き立ててくれてますね」
「ザクッとナイフを入れた瞬間、フレッシュなエビの弾力がビンビンに伝わってきます。プリップリ。いや、ブリンブリン?外はサクサクだけど、中はめちゃくちゃジューシーで、噛むごとにエビの旨味がジュワっと口の中に広がりますね。タルタルソースは濃厚だけれども、エビの甘みと旨味を殺してない。 う〜んレベル高い」
夢のプレート、ラストバッターはグラタンだ。カニクリームコロッケと共通のホワイトソースを使ったこちら。具はジャガイモとブロッコリーとホタテ。見ての通りホタテがゴロっと大きめ。
「この手の盛り合わせ的なメニューって、色々食べられるけど全体的にイマイチなパターンが多いような気がしますが、香味亭の洋食プレートは、全ての料理が大谷翔平級。打ってはホームラン、投げては160キロの豪速球をぶちかましてきます」
ここにパンまたはライス、サラダ、デザート、ドリンクが付いて1650円! おいおい、どうかしてるぜ。
続いて、プレートと並ぶ人気のメニューの「ビーフシチュー」をいただこう。
「よく煮込まれたお肉はメチャメチャ柔らかいし、形を保ったまま持ちあげるのが難しいほどです。肉と脂の旨味もすばらしく、これはもう完全に間違いないお料理ですね。絶対、頼んだ方がいい」
あまりのうまさに、ただただ唸る吉田。
さらに修二さんが追い打ちをかける。
「パンにソースをつけて食べてみてください(ニッコリ)」
「パンと肉のマリアージュがやばいですね。う〜んファンタスティック。こんな贅沢して良いんでしょうか」
最高の高崎洋食を堪能させてくれた香味亭さん。マジありがとう!
この味が今も楽しめるのも、代替わりが上手く行ったからこそ。最後はその辺りのお話もうかがっていこう。
「代替わりはスムーズに行きましたか?」
「両親とじっくり相談しながらという感じでしたね。親からすれば長年洋食屋をやってきたというプライドがあるわけです。とはいえ体が動かないわけですから、代替わりはしないとどうしようもないんですね。そういった気持ちも汲みつつ、できるだけ喧嘩にならないように、語弊はありますが“言いくるめ”ながら話し合いを進めました(笑) 」
「修二さんはフランス料理を学ばれていたということですが、メニューは変えなかったんですか?」
「代替わりの話をどこから始めたかと言うと『お店の名前をどうするか』からだったんです。結果として香味亭の名前は残すことになったんですが、そうなると昔からのお客様もいらっしゃることになります。基本的な味は変えず、値段に関しても極端に上げることはできないですよね。ただその中でも、今の人にもわかりやすいメニューであった、ボリューム的に満足いくメニューは用意しようということで、プレートを用意したりしています。それと私はソムリエの資格を持っているのでワインやオードブルも増やしました」
「今まで4人でやっていたことを2人でやることになるわけですから、リニューアルの際は、人手不足を解消できることを意識して設備を整えました。手を離して別のことができる機能的なオーブンや短時間で多くのパンを焼ける設備、自分でもお店を見渡せるオープンキッチンなどですね。お一人様を意識してカウンターを作ったのも大きな変化でした。以前よりも効率よくお客様に対応出来るようになりましたね。それとキャッシュレス決済にも力を入れていまして、かなりたくさんのサービスに対応しています。こちらも会計の時間短縮につながっていますね」
「リニューアルしたお店を見たご両親の反応は?」
「良くできているし、自分たちの店もちゃんと残っているということで満足してくれました。実はこの窓もリニューアル前を同じものを使っているんです」
「香味亭さんには、後継者に悩んでいるお店の方々にとって、いろんなヒントが詰まっている気がします」
「そうだといいんですけどね(笑)。お金の面でいうと、資金もスムーズに借りることもできましたし、事業を続けていくための国の補助なんかも結構あったりするんですよ。やはり長く続いている店には地域からの信頼があるので家業を継ぐ側にとって有利なことも多い。とはいえ守ってきた時間が長いからこそ継ぐのが難しいという側面もありますよね。『味が変わった』『サービスが変わった』という話にもなりやすい。そこは新しく始める人にとって一つの壁になることもあると思います。ただ、そうした壁も、たとえばお客さんの『美味しいね』の一言で乗り越えられるもの。私自身、毎日料理と向き合う中で、色んなことを学んでいます。そして、そんな毎日を楽しんでいます」
No.56
洋食 香味亭(こうみてい)
027-364-0882
11:30~14:00(L.O) 17:30~20:30(L.O) 日曜営業
火曜日
群馬県高崎市緑町4-4-8 香味亭ビル 1F
高崎問屋町駅から950メートル
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そんな時でも温かく見守っていただき、また別の機会に足をお運びいただけますと幸いです。