洋食の真髄を味わえる!洋食 香味亭

No.56

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発祥は戦前!超老舗洋食店が

フルリニューアルしても

伝統の味をしっかり継承していた

歴史ある街には洋食の名店が多いもの。ここ高崎も例外では無い。中でも古くから高崎の紳士淑女に愛されているのが、「洋食 香味亭」。とある筋からの情報によれば、なんと戦前から続いているらしく、現在のご主人は東京・日本橋の老舗洋食店「たいめいけん」で修行を積んだ正統派シェフ。そんな店は美味いに決まってる!というわけで、ぐーぐー腹を鳴らしつつお店へと向かった。

超老舗のはずなのに、めちゃくちゃ現代風のお店だった

ライター吉田

「こんにちは。絶メシ調査隊の吉田でございます。私、洋食には目がない! というほどでもないんですが、割と好きです。っていうか嫌いな人っているんですかね? 日本で独自に発展した西洋料理、いわゆる『洋食』は我々にとって日常の一部。家族の食卓で、あるいは街の大衆食堂で、ハンバーグやコロッケといった“THE洋食”が日常的に食べられているわけです。もはや洋食は日本料理と言っても過言ではありません」

と、のっけから洋食は日本料理だと言い張るライター吉田が向かったのは、高崎市の超老舗洋食店「香味亭」。昔ながらの渋〜い洋食が楽しめると期待して、店の前にやってきた。

……しかしである。

結構、現代的な外観じゃん。

店内も超フレッシュなの。
カウンター席とかあったりね。
戦前から続く老舗洋食屋というよりは、シャレたビストロかワインバー。さらに我々を迎えてくれたのは、見るからに頑固そうな老シェフ……ではなくとっても爽やかな雰囲気の保坂修二さんと則子さんご夫妻。

こ、これは思ってたのとぜんぜんチガウ!

事前に集めた情報を整理しよう。そもそも香味亭の前身は、保坂なかさんという方が昭和2年に始めた「カフェピナン」という店。大正から昭和初期にかけて流行した女給さんのいる「カフェー」だったが、美味しい料理が評判だったとのこと。しかし軍靴の足音が聞こえ始めてきた昭和16年に休業を余儀なくされ、以後20数年間にわたって眠っていた「ピナン」を、昭和42年にレストランとして復活させたのが、なかさんの孫で香味亭のオーナーシェフの保坂琼五(けいご)さん。それから50年以上、この高崎の地で質の高い洋食を提供し続けてきた。もちろん家族経営で――。

うーん、我々はそう聞いていたのだが、目の前に広がる光景は、そんな“絶っぽさ”(褒め言葉ですよ)とは無縁のキレイキレイな空間である。

修二さん
「ビナンの創業者保坂なかは私の曽祖母で、それを継いだ保坂琼五は私の父です。琼五は52年間店を続け、昨年77歳で現役を退きました。そしてお店は昨年10月に、父と一緒に店を切り盛りしていた息子の私が継ぐことになり、代替わりのタイミングでリニューアルオープンしたんですよ」
ライター吉田

「街の洋食店でこうやってきれいに世代交代できている例って、高崎に限らず貴重ですよね。お店の魅力について深掘りさせていただきたいんですが、お父様の琼五さんは日本橋の洋食店『たいめいけん』で働いていたそうですね」

修二さん
「ええ、初代料理長の下で7年ほど修行していました。ちなみに1964年の東京オリンピックではベルギー選手村の料理人として働いたんですよ
ライター吉田

「洋食のシェフとしては超ガチンコ系ですね」

修二さん
「その後、昭和42年に高崎に帰ってきて、1967年に祖父が戦前にやっていた『ピナン』を洋食店として復活させたんです」
ライター吉田

「ただの復活ではなく、カフェーから洋食店に業態をチェンジさせたんですね」

修二さん
「はい。家族で来られる洋食レストランにしました。当時は結構大きな店でスパゲッティ、ピザからお子様ランチまで、幅広いメニューを出していたんですよ。人気のある店だったんですが、父は料理人人生の締めとして、席数を減らして、きめ細やかなサービスができる店がやりたかったみたいです。それで26年前に移転して、名前も現在の『香味亭』と改めたんです」
ライター吉田

「修二さんはいつからこのお店で働いているんですか?」

修二さん
「16年前からです。私の経歴をざっくりお話しすると、高校卒業後、父に勧められて調理の専門学校へ。そして専門学校を出てからフランス料理の道に進みました。箱根や大磯のホテルやレストランで8年ほど働き、調理からサービス、ワインの勉強もしました。地元を離れて修行を続けて、戻ってきたのが16年前ということですね。それからはずっと父と母と僕と妻の家族4人で一緒に仕事をしてきたんです。それで父親が高齢になってきたということで、継ぐことにして、今は妻と2人で切り盛りをしているというわけです」
ライター吉田

「そういうことだったんですね。父上と16年間一緒に仕事をされてきたということは、味の方は継承されている?」

修二さん

「そこはご安心を。もちろんメニューには僕なりの味や工夫も加えていますけどね(笑)。まあとにかく食べてみてくださいよ(ニッコリ)」

父の味を守りつつも、現代的なセンスで進化させる

修二さんは香味亭を継ぐにあたって、父親が築いた伝統にアレンジを加えていった。その一つが香味亭自慢のグラタン、エビフライ、カニコロッケ、ハンバーグを一皿に盛り込んだ「プレート」の考案だ。この最高に違いないお料理、調理の様子を見学させていただきつつ、特徴をうかがっていこう。
修二さん

「プレートという新たな形式にしたのは私ですが、料理の根本であるソースなどは父の時代から変わっていません。この一皿で洋食の基本となるデミグラスソース、ホワイトソース、タルタルソース、トマトソースを一通り楽しんでいただけます」

修二さん

ルーから作っている自家製ホワイトソースにはこだわっています。牛乳と小麦粉、仕上げに生クリームを少しだけ加えた、これ以上ないというくらいスタンダードなものです」

ライター吉田

「むう…フライの揚げ方にもこだわりがありそうですね」

修二さん

水分が出切ってしまうと美味しくなくなってしまうので、完成形の9割ぐらい火が通ったところで油から上げています。エビフライにかけるタルタルソースは、自家製マヨネーズに、ゆで卵、ピクルス、パセリ、玉ねぎを加えたノーマルなもの。カニクリームコロッケにはトマトソースですね。セロリ、玉ねぎ、人参、ベーコンなどをトマトと一緒に煮込んで、ミキサーにかけたものです。作り方としてはフランス料理に近いです」

修二さん

「ハンバーグはしっかりとした食感が特徴ですね。デミグラスソースは、上州牛のブリスケットという部位からフォン(=だし)を取り、小麦粉を併せてルーにしたものです」

老舗洋食店の実力が詰め込まれた
看板メニュー2品を堪能する

というわけでお料理が完成。まずは一番人気を誇る「香味亭の洋食プレート」からいただこう。見た目こそ普通だが、普通じゃない手間とこだわりが詰まったメニューであることは、調理風景を見ている我々としては疑う要素などあろうはずがない。

ということで、

入刀の儀。

トップバッターのハンバーグは、しっかりと肉の食感が楽しめ、噛むほどに旨みたっぷりの肉汁が溢れてくる。が、決して過剰ではない。

ライター吉田

「デミグラスソースが絶妙ですね。ハンバーグの旨味を引き立てつつ『ボクもよろしくっす』的な感じ。ゴリゴリ自己主張してくるタイプではなく、すごく上品で調和の取れた味わいのハンバーグですね」

続いてはカニクリームコロッケにトライ。
ライター吉田

「まぁ、うまいこと(笑)。自家製のなめらかなホワイトソースと同じく自家製のトマトソースと共に、ぎっしり詰まったカニの旨みを引き立ててくれてますね」

バーグ、コロッケとくれば、次はエビフライである。
ライター吉田

「ザクッとナイフを入れた瞬間、フレッシュなエビの弾力がビンビンに伝わってきます。プリップリ。いや、ブリンブリン?外はサクサクだけど、中はめちゃくちゃジューシーで、噛むごとにエビの旨味がジュワっと口の中に広がりますね。タルタルソースは濃厚だけれども、エビの甘みと旨味を殺してない。 う〜んレベル高い

夢のプレート、ラストバッターはグラタンだ。カニクリームコロッケと共通のホワイトソースを使ったこちら。具はジャガイモとブロッコリーとホタテ。見ての通りホタテがゴロっと大きめ。

ライター吉田

「この手の盛り合わせ的なメニューって、色々食べられるけど全体的にイマイチなパターンが多いような気がしますが、香味亭の洋食プレートは、全ての料理が大谷翔平級。打ってはホームラン、投げては160キロの豪速球をぶちかましてきます

ここにパンまたはライス、サラダ、デザート、ドリンクが付いて1650円! おいおい、どうかしてるぜ。

続いて、プレートと並ぶ人気のメニューの「ビーフシチュー」をいただこう。

ライター吉田

よく煮込まれたお肉はメチャメチャ柔らかいし、形を保ったまま持ちあげるのが難しいほどです。肉と脂の旨味もすばらしく、これはもう完全に間違いないお料理ですね。絶対、頼んだ方がいい」

あまりのうまさに、ただただ唸る吉田。

さらに修二さんが追い打ちをかける。

修二さん

「パンにソースをつけて食べてみてください(ニッコリ)」

ライター吉田

「パンと肉のマリアージュがやばいですね。う〜んファンタスティック。こんな贅沢して良いんでしょうか」

ごちそうさまでした!

長年、「守ってきた」からこそ
そのまま継ぐのは難しいもの

最高の高崎洋食を堪能させてくれた香味亭さん。マジありがとう! 

この味が今も楽しめるのも、代替わりが上手く行ったからこそ。最後はその辺りのお話もうかがっていこう。

ライター吉田

「代替わりはスムーズに行きましたか?」

修二さん

両親とじっくり相談しながらという感じでしたね。親からすれば長年洋食屋をやってきたというプライドがあるわけです。とはいえ体が動かないわけですから、代替わりはしないとどうしようもないんですね。そういった気持ちも汲みつつ、できるだけ喧嘩にならないように、語弊はありますが“言いくるめ”ながら話し合いを進めました(笑)

ライター吉田

「修二さんはフランス料理を学ばれていたということですが、メニューは変えなかったんですか?」

修二さん

代替わりの話をどこから始めたかと言うと『お店の名前をどうするか』からだったんです。結果として香味亭の名前は残すことになったんですが、そうなると昔からのお客様もいらっしゃることになります。基本的な味は変えず、値段に関しても極端に上げることはできないですよね。ただその中でも、今の人にもわかりやすいメニューであった、ボリューム的に満足いくメニューは用意しようということで、プレートを用意したりしています。それと私はソムリエの資格を持っているのでワインやオードブルも増やしました

修二さん

「今まで4人でやっていたことを2人でやることになるわけですから、リニューアルの際は、人手不足を解消できることを意識して設備を整えました。手を離して別のことができる機能的なオーブンや短時間で多くのパンを焼ける設備、自分でもお店を見渡せるオープンキッチンなどですね。お一人様を意識してカウンターを作ったのも大きな変化でした。以前よりも効率よくお客様に対応出来るようになりましたね。それとキャッシュレス決済にも力を入れていまして、かなりたくさんのサービスに対応しています。こちらも会計の時間短縮につながっていますね」

ライター吉田

「リニューアルしたお店を見たご両親の反応は?」

修二さん

「良くできているし、自分たちの店もちゃんと残っているということで満足してくれました。実はこの窓もリニューアル前を同じものを使っているんです

ライター吉田

「香味亭さんには、後継者に悩んでいるお店の方々にとって、いろんなヒントが詰まっている気がします」

修二さん

「そうだといいんですけどね(笑)。お金の面でいうと、資金もスムーズに借りることもできましたし、事業を続けていくための国の補助なんかも結構あったりするんですよ。やはり長く続いている店には地域からの信頼があるので家業を継ぐ側にとって有利なことも多い。とはいえ守ってきた時間が長いからこそ継ぐのが難しいという側面もありますよね。『味が変わった』『サービスが変わった』という話にもなりやすい。そこは新しく始める人にとって一つの壁になることもあると思います。ただ、そうした壁も、たとえばお客さんの『美味しいね』の一言で乗り越えられるもの。私自身、毎日料理と向き合う中で、色んなことを学んでいます。そして、そんな毎日を楽しんでいます」

古き良き伝統は残しつつ、必要な部分は大胆に変えることで、見事代替わりを成功させた香味亭は、全ての絶メシ店に勇気を与えてくれる希望の星。そして高崎の皆さん!この味が、この値段で楽しめるって羨ましすぎ。もし足を運んだことがないようなら、ぜひともこの機会にどうぞ!
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