気持ちがこもったマッスル中華海皇

No.45

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短パン&ノースリーブで鍋を振る

身も心も筋肉質な料理人が作る

気持ちがこもったマッスル中華

「町中華」というワードが一般化しつつある昨今。ここ高崎には、町中華とは一線を画す“マッスル中華”ともいうべき、激アツな料理を提供する中華料理店があるという。その名は「海皇(ハイホアン)」。短パン&ノースリーブ姿で一心不乱に鍋を振る店主。その上腕二頭筋の盛り上がりだけでメシ3杯はいけそうだけど、出された料理はもっともっと食欲が進んでしまうやばいやつ。もう一刻も早くみなさんに、この店を知ってもらいたい!

(取材/絶メシ調査隊 ライター名/船橋麻貴)

マッスル短パン店主が登場!
心のBGMはウルトラソウル

写真ライター船橋

「どうも! 最近、餃子づくりに夢中のライター船橋です。餃子づくりのためだけに野菜を細かく刻むマシンまで入手したものの、誰のために作っているのか、この先になにがあるのかよくわかっていません。餃子を包んで包んで包みまくりの日々です。餃子のことで頭がいっぱいで仕事が手につきません…。もう誰か私を包んでください」

原稿の遅れを餃子づくりのせいにしがちなライター船橋が訪れたのは、高崎の人気中華料理店「海皇(ハイホアン)」だ。

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住宅街の一角に現れる「海皇(ハイホアン)」

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安定感ある町中華らしき佇まい

中華料理に目がない絶メシ調査隊一行がテンション高めに暖簾をくぐると、そこに待ち構えていたのは店主の新井克己さん(60歳)。中華鍋で鍛え抜かれた(と思われる)たくましい腕、そしてちょっと強面のマスク。これはただものではない。

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あっつあつの油の跳ね返りなんてなんのその。厨房でも漢のノースリーブである

そして下半身は短パン&ニーパッド。間違いなくただものではない。

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調理場から出てきたときに、思わず絶メシ調査隊一行が二度見した短パン姿。夢じゃない、あれもこれも

写真ライター船橋

「いきなりですけど、めちゃくちゃマッチョですね」

写真新井さん

「え、そうかな? 全然そんなことないと思うんですけどね(太い腕をさすりながら)」

写真ライター船橋

「いやいやいや……やっぱり重たい中華鍋を振るからですか?」

写真新井さん

「う〜ん、仕事で筋肉がついたっていうよりは、健康のためにプールに通っているからかもしれないですね。なんで短パンかって? いや、これ海パンです(にっこり)」

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一見コワモテだけど、笑顔はとってもチャーミング

写真ライター船橋

「ほぅ、そのマッスルボディは、プール通いの賜物と。でも、プールでそんな太くなります?」

写真新井さん

「なるなる。だって休みの日は、ずっと泳ぐんですよ。クロールやバタフライで3~5時間くらい。健康には、市民プールが一番。安いし、最高です。まぁ、高崎じゃなくて、前橋のプールに行ってますけどね!」

写真ライター船橋

「今、この記事を読んだ高崎市長がひっくり返っていると思います」

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整然と並ぶ調味料たち。これがウマさを加速させる

平成4年に創業した「海皇(ハイホアン)」だが、新井さんが中華の道に進んだのは15歳のとき、45年も前のことだという。

写真新井さん

「中学卒業後、目的はないけど東京に出たんです。特にやることがないもんだから、先輩が働いていた世田谷区内の小さい中華料理屋さんに遊びにいったんです。そしたら、どういうわけか働くことになって。ハハハ!」

写真ライター船橋

「なぜに(苦笑)。直感で言っちゃいますけど、新井さんって相当やんちゃでしたよね?」

写真新井さん

「やんちゃっていうか、もうバリバリですね。向かうところ敵なしみたいな」

写真ライター船橋

「まんまですね(苦笑)」

写真新井さん

「中学までバリバリで東京出て、15歳でその中華料理店に入って、すぐに先輩はやめたけど、自分は29歳までいましたね。気合いでやり続けました。ええ、気合いだけでしたね」

写真ライター船橋

「ガッツで成り上がった系ですか。でも昔のヤンキーの人って、異常に根性ある人が多いイメージがあります」

写真新井さん

「まぁ、自分は根性ある方だと思います。もちろん“勉強”もしましたよ。当時、新宿にあった中華レストラン『マンダリンパレス』とか、横浜中華街の『聘珍樓(へいちんろう)』『萬珍樓(まんちんろう)』とか、いろんなところへ食べに行って学びました」

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思わず「アニキ!」と言いたくなる新井さんの風貌と話しぶり

15歳から29歳まで東京の町中華で働きつつ、首都圏周辺の有名店を食べ歩き、中華偏差値を上げていった新井さん。29歳で店を去ると、いよいよ独立! しかし、中華店ではなく喫茶レストランを開くことになったという。な、なぜ(笑)。

写真新井さん

「なんでって、借りた物件が元喫茶店だったから(あっさり)。でも茹でるものが中華麺からパスタ、油がごま油や植物油からオリーブオイルに変わっただけで、やることはそんなに変わらなかった。29歳から3年ほどやってたけど、これが意外と流行ったんですよ!」

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スープに使用する鶏と豚のげんこつを両手にポーズを決めてくれる新井さん。話せば話すほど好きになってしまう……

この筋肉質な味わい!
これぞマッスル中華だ!

借りた店舗が元喫茶店だったからという理由で、中華の道を一回外れた新井さんであったが、「やはり本業で勝負したい」という気持ちが募り、ついにここ「海皇」をオープンさせる。ここには書けないレベルの話もたくさんしてくれた破天荒オヤジ・新井さん。そんな人のつくる中華、絶対に食ってみたい!

ということで、人気メニューをいくつかオーダーしてみることに。すると、厨房という名の舞台へ立つ新井さんの姿が!

ここからはもはや
“新井克己劇場!”

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主演・脚本・演出/新井さん

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休日に5時間泳ぎ続ける還暦オヤジのダイナミックな調理風景は圧巻!

肉体的にはもちろん、精神的にもマッチョな新井さんがつくる中華とはどんなものか。

期待に胸を膨らませ……てる間もなく、ものすごいスピードで料理が次から次へとテーブルに運ばれてきた。仕事が早い中華料理人は信用の証だ。

今回のラインナップは以下の通り。

豆腐炒め(480円)

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通称“白麻婆”。プルンプルンである

四川風たんたん麺(880円)

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なんと美しいことよ

そしてネーミングからしてマッチョな…
ドラゴンチャーハン(880円)

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鷹の爪が盛られたホットな一皿

写真ライター船橋

「もうどれからいただいていいのか迷いますが、まず“白麻婆”から……」

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そのお味は?

写真ライター船橋

「おお、うまい! 豆腐がふわっふわだし、味付けもなんか優しい!」

写真新井さん

「よかったぁ。豆腐を強火で炒めてスープを加えて火を入れると、大豆の甘みが出てくるんです。そこにうす口の醤油で味を調えているだけなんですけどね」

続いては、白いスープが魅惑的な四川風担々麺。

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香りからして間違いない!

写真ライター船橋

「はぁーん。ひと口食べると、ゴマの豊かなコクが口いっぱいに広がるし、麺がつるつるでだし、ピリ辛で体が温まるし、もう幸せしか感じられない!」

写真新井さん

「そうでしょう! うちはスープも麺も手作りですから。ミキサーで引いたゴマに大豆油とピーナッツで合わせて独自にアレンジしてるんですよ」

最後は名前が気になって仕方がないドラゴンチャーハン。

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うれしい、たのしい、だいすき!

チャーハンの上に乗った玉子をつぶして、ようこそお口の中へ~!

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半熟の玉子焼きをくずせば、そこは天国!

写真ライター船橋

「ニンニクとトウガラシが効いていて、まるでナシゴレンのよう! ややピリ辛で激うまうまぁ~。もう新井さん、天才じゃんっ」

写真新井さん

「誰でもこれくらい作れますよ(照れ)。あと人気なのは、ニラレバ炒めとギョーザかな」

奇しくもニラレバ炒めとギョーザは船橋の大好物。そのことを伝えると、再び厨房が新井劇場に!

止めんじゃねーぞ!

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奥さんの寿代さんもジョインして怒涛の調理!

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ギョーザの焼ける音とニラレバが炒まる音、そして換気扇の音が醸すハーモニーは最高

イエーイっ!

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ニラレバ炒め(750円)。レバーを持つ手が震えるぜ!

写真ライター船橋

「レバーの肉厚具合、ぷりぷりだし最高すぎ! そしてレバー特有の臭みが一切ない! うますぎにつき、もう一緒に炒められたい…」

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誰かあたしを炒めて♡

写真新井さん

「高崎はホルモンの街だから、レバーも新鮮なものが手に入るんですよ。下処理はこだわりがあって、水につけて血抜きをしてから、塩コショウ、しょうゆ、みりん、しょうが、にんにくで下味、そしてカレー粉で臭みをとってます」

そしてお待ちかねのギョーザ!

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ギョーザ(6個入り367円)。やったー!

写真ライター船橋

「はぁ、これ見た目からしてモチモチ感が溢れ出てる! なんなの! ねぇ、いったいなんなの!」

写真新井さん

「あ、これはですね、皮も手作りですなんですよ。強力粉と薄力粉を合わせたものに、タピオカ粉をちょっとだけ混ぜてるんです。だからもちもちだけどつるつるとした食感になるんですよ。具材は、キャベツ、白菜、にら。これににんにく、しょうが、中華スープを入れて、コクだしにオイスターソースや味噌も加えてます(とうとうと説明)」

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ギョーザを食べる直前に、丁寧に説明してくれる新井さん

ウェイティングしている船橋。

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「あ、はい」

写真ライター船橋

「もう我慢できないんで、食べちゃいます!(もぐもぐもぐもぐ)ブラボー! 私が日ごろ作っている餃子の100000000倍はうまいっす!!! これどうやって作るんです?」

マジでウマかったので、餃子の作り方を細かく聞いてしまうライター船橋。

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惜しげもなく教えてくれる新井アニキ

すべて手作り!
なのに目指すは既成品の味

いろいろ、お話を伺ってからわかったことだが、こちらのお店、ほとんどが手作り。スープから麺、餃子の皮まで…メニューや店頭にはそんなことは一切謳っていないのに、全部やっちゃてるのである。なんか、語らないところがまたかっこいい。

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こちら手作りの麺。1度にできるのは60食が限度だそう

写真新井さん

「手作りにこだわり始めたのは、10年ちょっと前。2004年くらいに一気に景気が悪くなって、外食産業もぱったりとお客さんの足が遠のきました。その時、『こりゃもう、自分でイチから作るしかない』って思ったんです。業者に頼むより、自分でやったほうが安くなると。もちろん手間はかかるんですけど」

写真ライター船橋

「コストカット目的からなんですね。手作りで目指した味は、どんなものでしょうか?」

写真新井さん

「既製品に近いものですね」

写真ライター船橋

「えっ」

写真新井さん

「だって、それが一番食べやすくて喜ばれるんですよ。自分の強い個性を出すんじゃなくて、クセのない食べやすい味にすることを大切にしてます。食べやすいものはウマいんです。そのことを意識して、今も勉強はしているし、一つひとつの味に向き合っていきたいなって思ってます」

写真ライター船橋

「探究心がすごいですね」

写真新井さん

「いやいや、大したことないですよ。ここだけの話、『月刊食堂』っていう業界紙があって、そこに“答え”が書いてあるんです。経営のノウハウも、繁盛店にすべきアレコレもみんな載っている。15の時から今まで愛読してますよ。これに書いてある通り、普通にやっていけば大丈夫です(断言)」

写真ライター船橋

「すげーこと言いますね(笑)。じゃあ、最後に今後のことを。まだまだお若いのでアレですが、後継ぎなんていたりするんでしょうか?」

写真新井さん

「大学生と高校生の子供はいますが、後継者ではないし、継がせたいという思いはまったくありませんね。子供たちは自分とは違って、バリバリの進学校に行ったので自分の道を生きてほしい。自分と同じ人生じゃつまらないし、やりたいことを好きなようにやってもらいたい。でも、自分はこの店を死ぬまでやる気でいますよ!」

競争心が強くって、おいしい味を追求するために勉強を怠らない新井さん。一度会ったら誰しもが惹かれてしまう、お茶目さとやさしさを持ち合わせた人でもある。絶メシ界ではまだまだ若手の60歳。プールで鍛えた強靭な体と、料理への愛と確かな技術があるから、向こう30年はおいしい中華を味わえるに違いない。

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店主の新井克己さんと奥さんの寿代さん

取材・文/船橋麻貴
撮影/今井裕治

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