半世紀続く町中華可楽

No.04

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キュートな笑顔の店主に恋して
“ただなんとなく”が半世紀続く町中華・可楽

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人の通りが多い高崎市役所や高崎美術館からほど近い中華料理店「可楽」(からく)。ひっそりとした佇まいながら、その味や店主に魅せられて長年通うファンも多いとの噂をキャッチ。うまいものには鼻が利く絶メシ調査隊は、早速「可楽」へ。そこで我々が出会ったのは、半世紀以上も店を“なんとなく”守る、素敵な笑顔を持つ店主だった。

(取材/絶メシ調査隊 ライター船橋麻貴)

高崎の笑顔の貴公子、ここにあり!

写真ライター船橋

「どうも、絶メシ調査隊のライター船橋です。絶メシ調査隊に入隊してからというもの、頻繁に高崎に足を運ぶようになり、どんどんこの街が愛おしく思えております。だって高崎のご飯屋さんの店主たちはみんな優しいし、なにより高崎グルメは意外とうまいし(失礼!)。なんなんですかこれは。もしや、私、高崎に恋しちゃってるのかな…?」

早くも高崎に魅せられているライター船橋が今回訪れるのは、中華料理店「可楽」。最近話題の町中華のようなその外観から、期待値がぐ~んとあがる店だ。

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住居兼店舗。ベランダには洗濯物を干している模様だ

いざ店内へ。すると、長年の油が染みた厨房を囲むカウンター席や、背もたれのないイスにテーブル、コンビニに置かれているだろう増刊的マンガがお目見え。

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年季の入った店内。これぞ中華料理屋の醍醐味というものよ!

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街の中華料理屋の代名詞ともいうべき、コミックがズラり

「あ~、これはこの店に歴史ありの証だ」と、勝手に憧れの昭和期に思いを馳せるライター船橋。そんな妄想する中、とびっきりの笑顔を向けてくれたのは、店主の小山正男さん。高崎のスマイルの貴公子、その人である。

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高崎の笑顔の貴公子こと、店主の小山正男さん。キュートで優しいこの笑顔に、ライター船橋はずきゅん

「まさに癒しの笑顔。ずっと見ていたいくらい素敵な笑顔!」と鼻息を荒くするおじさん好きのライター船橋は、意気揚々と質問を投げかける。

写真ライター船橋

「いやぁもう、激シブのかっこいい佇まい。あっぱれです! やっぱりお店の歴史、スゴイんでしょう?」

写真小山さん

「いや、そんなものないよ(にっこり)」

写真ライター船橋

「またまた~! 小山さんがお店を始めた経緯、教えてくださいよ」

写真小山さん

「そんなこと言われてもねぇ。本当に漠然となんとなく始めたもんだからさ(にっこり)。元々は祖父母がここ高崎で理容業を始めたんだけど、オヤジは勤め人だったんだよね。それで戦争から帰った時に大判焼きとかの小商いをやり出したの。僕は理容も小商いもやる気がなくて、自分の代になったら飲食店が食いっぱぐれないんじゃないかなって思いついただけなんだよね」

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だるまには目を入れない派

写真ライター船橋

「まさかまさか。でも中華料理を選んだのには、こだわりがあるんですよね!!!!!」

写真小山さん

いやそれもないよ(にっこり)。ラーメンとかチャーハンがいちばん手っ取り早いと思ったんだよね。それで18歳で東京に修行にでてさ。もうすぐ70歳だから52年も前のことになるよ」

写真ライター船橋

「70歳? え、小山さん若くないですか!!!」

写真小山さん

全然そんなことないよ(にっこり)。腰は曲がってるし、体はそれなりだよ。最近は腕が痛すぎて中華鍋も振れない。だから普通10回振るところ3回にしてんだ。味が変わるかって? そんなことはないんだよ。あとの7回、きちんとかき回せばいいんだから」

写真ライター船橋

「(キュートすぎるだろ……)。店の名前、“可楽”はさすがにこだわりを持ってして決められましたよね!!!!!」

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店名からして、なんだかハッピー

写真小山さん

「そこまでじゃないんだよね(にっこり)。これも中国語の単語帳をペラペラめくってたら見つけただけ。“楽しく過ごせる”という意味。まぁこれまでの50年間、なんとかそれなりに楽しくやってこられたけどね」

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2017年3月までは、店舗の脇でたばこ屋としての営業も行っていたそう

レシピなんてない…作り方は体が覚えている

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「こだわりの料理は?」との問いにも、小山さんは「そんな大層なものじゃないよ」と厨房でにっこりほほ笑む。今回は、ランチで人気の高いという肉野菜炒め定食を作っていただくことに。

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鍋を振る小山さんの横で奥さんがしっかりとチェック

写真ライター船橋

「あ、奥さんが見守ってくれてますよ!」

写真小山さん

「年中けんかになるけど、うちの女房はこの店の四番でエースでキャプテンだからね。おおよそ逆らえないよ。50年間、一度もアルバイトを雇わずにいられたのは、お金の問題もあるけど、ある意味、女房がいたからかもね」

写真ライター船橋

「50年間アルバイトなしですか! すごい! ちなみに料理のこだわりはあるんですよね!!!!」

写真小山さん

そんなものないよ(にっこり)。細かいレシピもないし、料理は体が覚えているもんだよ。だから鍋を振ってるときも、“次の休みどこに行こうかな”って考えてるんだ(にっこり)」

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半世紀以上も二人三脚で店を支えてきた

そしてものの30秒で肉野菜炒め定食を作り上げた小山さん。それも鍋を3回しか振ってないとは、とうてい思えないほどの手さばきで、だ。

そして出来上りがこちら。

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ボリューム満点の肉野菜炒め定食650円。長年、高崎市民の胃袋をつかんできた

愛しの小山さんの料理、いただきます!

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箸を持っただけでわかるのだ。これは激ウマということが

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女は何も言わずに男が作った料理をもくもくと食う、のだ!

写真ライター船橋

「うまいうまいうまいうまい~!!!! 調味料も材料もシンプルなのに、この味は絶対家で出せないですよ!」

写真小山さん

「そう? よかったねぇ。やっぱり鍋を3回しか振ってないからかな(笑)。あまりやりすぎちゃうと野菜のシャキシャキ感がなくなっちゃうからね」

70歳にはとうてい見えない小山さんだが、一般的にはシニア枠であることには違いない。愛するが故、小山さんに聞いてみたいのだ。お店の今後はどう考えているかということを。

写真小山さん

「それはわからないよ。明日で終わるかもしれないしさ。もし、辞めていいなら今だって辞めたいくらい(にっこり)。後継者もいないし、子供たちにもやらせたくない。もしやりたいと言い出しても、『やめておけ』っていうね。これからの時代はもっと大変になるだろうしね。だから今は、できるところまで続けられたらってくらいの感じ。そんなに難しく考えてもいないんだよね」

投げかける質問にいつも笑顔で返してくれる小山さんは、間違いなく街の人に癒しを与えて続けてきた人。それもきっと本人さえも気づかないくらいのさり気なさで。そんな小山さんのこの笑顔に一度出会ってしまったら、恋せずにはいられないはずだ。それがたとえ、3回しか鍋を振らない炎の料理人だとしても。

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取材・文/船橋麻貴
撮影/今井裕治

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